ちいちゃい手

体育祭を終えて、秋は突然訪れた。
風太と杏は修学旅行の準備を始めていて、汰絽達は中間テストの真っただ中だ。
今日も汰絽は夕飯を終えてから、部屋に籠って勉強していた。
その姿はまるで、何かを払うように熱心に。


「ふうたぁ」

「ん? どうしたむく」

「たぁちゃん、来ない」

「来ない?」

「ねんねするのに、こないの」

「ああ、勉強してるんだな。呼びに行こうか」

うんと手を伸ばしたむくを抱き上げて、風太は汰絽の部屋をノックする。
返事は返ってこない。
開けるぞ、と言いながら、風太がドアを開けると汰絽は机に突っ伏していた。
スースーと寝息が聞こえてきて、風太は小さくため息をつく。
最近の汰絽はずっとこんな調子だ。
むくも不安そうに風太のシャツの肩口を握っている。


「たろ、たーろ」

肩を揺らすと、びくりと起き上がった汰絽はすみません、と小さく謝り手を伸ばしてきたむくを抱き留めた。
むくの髪を撫でた汰絽は、風太にもう一度謝った。


「むくごめんね、」

汰絽はそういうとむくの額に口付ける。
ベッドにむくを下ろして、汰絽はそっと布団をかけた。
風太に視線を移すと、どこか怒ったような表情をしながら廊下を指さす。
そのジェスチャーに汰絽はこくりと頷いて、むくの髪を撫でた。


「ちょっと待っててね」

そう言ってから、汰絽は風太とともに廊下へ出た。

廊下に出ると、風太が顔を覗き込んできた。
風太の顔が近づくと、体育祭の時のことを思い出して、あまりじっと見れない。
ついっと視線を逸らすと、風太が大きくため息をついた。


「テスト、そんなに勉強しないといけないくらい勉強してなかったのか」

「…そんな、わけじゃないです」

「むくが心配してた。最近部屋に籠ってたからな」

「ごめんなさい」

しゅんと俯いていると、風太のため息がもう一度聞こえてくる。
壁に背中を預けた風太に名前を呼ばれ、おずおずと顔を上げた。
風太はもう怒ったような表情をしていない。


「体育祭の時のことが原因か」

「…っ」

「あの時は、悪かった」

「…あ、えっ」

「お前の気持ちも考えずに、あんなことして」

汰絽は体育祭の時のことを思い出した。
女借が終わって屋上での出来事。
熱い日差しで熱せられたコンクリートの上で感じた体温を。
かっと頬が熱くなって、その熱を払うようにふるふると首を振る。


「たぁちゃん」

扉が開いて、むくが顔を出す。
足元に抱き付いてきたむくに、汰絽ははっとした。
風太の方を見て泣きそうな顔をしてから、ごめんなさい、と小さく謝る。
おやすみ、と呟いた風太に挨拶して、むくの小さな手に引かれ汰絽は部屋に戻った。
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