こんなの初めて

「ふかふかですね」

「いいソファーだからな」

「へえ…。で! 約束のあれを…!!」

「真顔かよ」

「真顔になっちゃいますよ…! はあん…こんな素晴らしい筋肉初めてですもの…」

「すげぇ興奮の仕方だな…」

「我慢できなーいっ」

そわそわとした汰絽ががばっと風太のTシャツを捲り、腹筋に手を伸ばした。
今までにないくらいの興奮の仕方と表情に風太はびくりと身体を動かす。
不良顔負けの素早さで伸びてきた小さな手が腹筋に触れて、反射的にその手を掴んだ。
意外と力強いその手に呻きを上げる。


「くっそ、お前力強いな!」

「好きに触れって言ったのにぃぃっ」

「いやいやいや! 好きに触れといったけどな! まさかそこから入ると思わないだろ!」

「いやあああ触らせてぇえ」

「落ち着け! たろっ、落ち着けよ」

「落ち着いたら触らせてええ」

「わかったから!」

腹筋から離れた手は、ぷるぷると震えながら風太の腹筋に狙いを定めている。
その手をしっかり掴み、今にも襲い掛かってきそうな汰絽を警戒した。
非常に触れ合いの多い良いシチュエーションでも、自分が襲われるのはプライドが許さない。
小さな魔の手から自らのプライドを守るために風太は力を抜けなかった。
そんな中、かわいらしいベルが可愛そうなくらい乱暴に鳴らされた。


「ちーっす! ショウさーんオレンジジュース頼んます!」

「わっ」

「おっと」

可愛らしいベルが最後にからん、と音を立てたところで、ふたりは牽制しあいながらもお互いの手を離し居住まいを正した。
声が聞こえた方を向くと、黒と白のウルフカットのイケメンが立っている。
イケメンは夏翔に自分の背後を指さされ、こちらを振り返った。


「総長! ちっす!」

「ちっす。美南よくやった。ナイス」

「ナイス? …うおっ、なんかいる。総長の隣にちっさい可愛いのいる!ちっす!」

「こんにちは」

「喋った! ちっさいの喋ったああ」

「お前も落ち着けよ」

総長もとい、風太に言われてお口にチャックをした美南はふたりの前に腰を下ろした。
美南のきらきらとした瞳が汰絽を興味深そうに見つめる。
汰絽は首を傾げながら風太を向いて説明を求めた。


「たろ、こいつは水樹美南。俺の後輩」

「僕と同じですか?」

「いや。中3?」

「そっす」

「高校生じゃないんですか?」

「違うっす」

「えええ」

「かわええ…」

嘘だとでも言いたそうな汰絽に美南はデレデレとしながら笑う。
汰絽の興味が美南にむいていることに気付いた風太は、美南に少しむかつきながら、さりげなく汰絽の背中の背もたれに腕を回した。
少しだけ距離が近くなる。


「総長、紹介してくださいよ」

「あ?」

「しょ、う、か、い」

「あ?」

そおちょーとしょぼんとした声を出す美南に、汰絽が村長? と聞き返した。
汰絽のすっ呆けた発言に見事な突っ込みを入れながら、風太は美南を睨み付ける。
常日頃睨み付けられているのか、美南は諦めずに風太を縋るように見つめた。
美南のお願いは叶えられることなく、一瞥されるだけで終わった。


「たろ、なんか飲むか」

「リンゴジュース飲みたいです」

「美南、リンゴジュースだって」

「はいっただいま!!」

どこかの居酒屋の店員のような返事をした美南が夏翔の元にかけていった。
あいつ、バカだな。と心の中で思いながら、汰絽の背中に回した手でふわふわの蜂蜜色を撫でる。
手触りが良く撫でていると、汰絽がふわりと笑った。
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