家族になりました。

風太が用意してくれた水を手に取る。
むくと同じ目線までしゃがんで、微笑んだ。


「むく、お水飲んでね」

「ん」

汰絽から受け取った水をゆっくりと飲む。
わしゃわしゃとタオルで髪を乾かしてもらいながら、むくは水を飲みほした。
手を繋いでリビングに戻ると、風太はテレビを見ている。


「あがりましたよ」

「あぁ。…むく眠そうだな」

「お風呂であったかくなったから…。むく、もう寝よっか」

「うん…風太、いっしょ?」

「一緒が良いか?」

「ん…」

こくりと頷いたむくに、風太は軽く笑う。
少し困ったように自分を見てくる汰絽に頷いて見せた。


「むく、先寝てろ。風呂入ってきたらすぐに行くから」

こくこくと必死に頷くむくに、風太は優しくむくの頭を撫でる。
それから風呂場に向かう、と告げ、リビングを去った。
むくを抱き上げた汰絽は、ゆっくりと子守歌を歌いながら汰絽とむくの部屋に向かう。
扉を開けて、大きなベッドにむくを寝かせた。


「今日は疲れたね。ゆっくりねんねしようね」

むくの髪を優しく梳きながら、頬に口付ける。
きゅうと笑顔を見せたむくに微笑み、汰絽はもう一度むくの額に口付けた。
目を瞑ったむくにほっと息をついて、明かりを豆電球だけにする。
本棚に入れた本を手に取り、ベッドヘッドの明かりを頼りに文字を目で追った。



「…むく、寝たか?」

「はい…。あ、電気つけましょうか?」

「いいよ」

汰絽の隣に腰をかけた風太は、息をついた。
濡れた髪が、ベッドヘッドの明かりにきらきらと輝いている。
右肩にかかったタオルでそこは濡れていないが、左肩が垂れた雫で濡れていた。


「髪、傷んじゃいますよ?」

「ん? 乾かしてよ」

「タオル借ります」

風太の言葉に、汰絽は肩にかかっていたタオルを手に取り、風太の髪に触れた。
それから、いつもむくにするようにわしゃわしゃと拭く。


「まじか」

「はい?」

「いあや、なんか本当にしてくれるとは思わなかったから。…ありがとう」

「冗談だったんですか…?」

「そうじゃないけどさ」

何か言いかねているように感じ、汰絽はそれ以上追及しないでいた。
そろそろいいかな、とタオルドライをやめる。
風太の髪を指先で触れて、よし、と呟く。


「ありがとうな。…まだ慣れないと思うけどさ、ここをばあちゃんの家みたいに思えよ」

「はい…、できれば、そうしたいと思ってます」

「遠慮しなくていいからさ」

「風太さん」

「ん?」

ありがとう
汰絽はとすん、と隣に座り、小さな声で呟いた。
今まで他人行儀に感じていた敬語をぬかして…。
風太はそれが、奇跡のように感じられた。
まだ付き合いは短い。
けれど、汰絽は確実に風太に気を許してくれた。
そんな気さえ、した。

マイホーム・マイファミリー end
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