姉という存在

英の姉の結華は、聡明でとても美しい。
弟である英も姉を深く愛し、父と母も姉を深く愛した。
姉は誰からも愛されて、誰からも尊敬される人物だ。
そんな結華は、路衣家の跡取りとして厳しく、それでいて大事に育てられている。

聡明で美しい、まるで絵にかいたような女である結華も、高校生として若く熱のある感情をもてあましていた。
英と結華にはふたりの幼馴染がいる。
ひとりは世界を担う財閥のひとり息子である一時雨。
もうひとりが、結華の思い人。
そして、英が最も焦がれて止まない、九秋雨。

英は姉の気持ちに気付いている。
自分の気持ちよりも、姉の気持ちが優先されるべきだ。
そう思い始めたのは、秋雨が大学に進学し、英が高等部に進学した頃だった。
その頃には、英の通う学園の姉妹校に通う結華の家庭教師を秋雨が任されはじめた。


「秋雨」

「結華、玄関まで迎えに来なくてもいいのに」

「あら、一応あなたは先生よ?」

「変な奴」

姉と秋雨が楽しそうに話す様子を見て、英は微笑んだ。
そうでもしていないと、この重たい胸に押しつぶされてしまいそうだから。
優しい姉が手招きをしてくれて、英は階段を下りた。
姉達と同じところに立って、英はズキズキと痛む胸を押さえる。
そんな仕草には誰も気づかない。
チャイムがもう一度鳴り、扉が開いた。


「時雨、いらっしゃい」

「結華さん、お邪魔します」

入ってきたもうひとりの幼馴染の時雨にほっと一息をつく。
姉と時雨がリビングに先に入っていき、英は最後にリビングに入った。


「秋雨、ここ。これでいいの?」

「ああ。そうそう。で、これを、ここに代入して」

秋雨と結華が同じ教科書をふたりで眺める。
その前のソファーに腰をかけて、英はふたりの様子を見ていた。
頭のよくて、綺麗な姉。
その隣には誰もが憧れるくらい、格好良い秋雨。
ふたりが一緒にいると、まるで絵のようだ。
昔、そう言っている親戚がいた。
そんな些細なことを思い出して、英は目を瞑る。


「英、眠たいの?」

姉が優しく笑うのを聞いて、小さく頷く。
部屋で眠るね。
そう伝えて、立ち上がった。
広いリビングを抜けて、玄関前の階段を上る。
部屋に入ると喉を迫り上げてくる感覚に襲われて、備え付けのシャワールームに入った。
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