零れ落ちた、きらめき

「悪い、盛られた」

秋雨の言葉に英は目を細めた。
それから、細く貧相な腕を秋雨に精一杯伸ばして微笑む。


「…悪い」

優しい大きな手のひらが頭を撫でられ、噛みつくような口付けに襲われる。
ふたりで崩れ落ちるように床に座り込む。
深い口付けに体の力が奪われて、床に押し倒された。
秋雨の熱い吐息が首筋を撫で、そっと目を瞑る。


「英」

「ん…、んっ」

優しく名前を呼ばれ、体が震える。
熱い手のひらが腹部に触れて息をつめた。


「英、ごめん」

何度も謝る秋雨の声を聞きながら、遠のいていく意識に身を委ねた。




「英…」

疲れ果てて意識を手放してしまった英をそっと抱き上げた。
いつのまにか軽くなっていた体を抱き上げてため息をつく。
もう一度、ごめん、と呟いて、英の荷物を持ち上げた。

図書館を後にして、自分の寮の部屋に連れ帰った。
ベッドに下ろして、髪を撫でてやる。
しっとりと汗をかいた額を拭いて、秋雨もベッドに入った。
細く儚い体を抱きしめて目を瞑る。


「ごめん、…ごめん」

罪悪感に胸が締め付けられて、唇を噛んだ。
隣の儚い存在を感じると、罪悪感は強くなっていく。
ごめん、何度も謝っているうちに、意識が遠のいていった。


小鳥の鳴く、優しい朝。
目を覚ますと、隣に眠っていた英が起きていた。
窓の外を眺めている英の頬を、きらきらとしたものが落ちる。


「ごめん」

秋雨は思わず、声に出して謝った。
そんな秋雨に英は苦笑して、こちらへ視線を向ける。
優しい眼差しには、少しだけ切なさが混じっていた。


「ファンから貰ったのなんか食べるからだよ」

英の言葉に救われた。
自分を責める言葉ではない。
そんなことが、心を安らげてくれた。
ぽんぽん、と、幼いころからの癖で英の頭を撫でる。
嬉しそうな顔をした英が微笑んだ。


「お前と一緒にいるときで助かった」

「本当だよ。今度から気をつけてよね」

ふいっと英が拗ねるように顔を窓へ向けた。
細い肩が小さく震え、押し殺したような嗚咽が聞こえる。

―…ああ、英は、俺のことが好きなのか。

気付いてしまった英の気持ち。
もう元には戻れない。
そんな気がした。
英の頬を、きらきらとした雫がもう一度零れ落ちた。

呼吸 end
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