忘れたい

「姉さん…昨日はごめん」

「大丈夫よ。…私はまた学校に行かなければならないの。ひとりで平気?」

「うん、大丈夫。心配しないで」

「…秋雨が来てくれるわ。それまでゆっくり休んでなさい」

姉のほっそりとした女性らしい手で頭を撫でられる。
ほっとするような、落ち着く感覚にそっと目を瞑って頷いた。
姉が部屋を出ていくのを見送ってから、ベッドに戻る。
部屋に戻ると、ベッドサイドに置かれた携帯が鳴っていた。


『今日は休みか?』

「うん。…和穂、ノート…」

『わかってるよ。お大事にな』

うん、と返すと、通話が切れた。
携帯を閉じてベッドに転がると、昨日のことを思い出して身体が震える。
早く、早くとまだ来ない秋雨を何度も呼んだ。


昼を過ぎた頃、チャイムが鳴り、ゆっくりと起き上がった。
いつの間にか眠っていたようで、身体が少しだるい。
玄関を開けると、秋雨が立っていた。


「大丈夫か」

こくりと頷いて秋雨の後を歩く。
先にソファーに腰を下ろした秋雨の隣に座り、ほっと息をついた。


「英、…俺のところに来ないか。結華も頼むって言ったし、俺のところなら一番安全だろ」

秋雨の声が真剣で、小さく頷く。
姉に頼まれたことでも、秋雨の言葉が嬉しい。
けれど…、この男は、姉の言葉だから、渋々受け入れたのではないか、と思ってしまった。
不意に頬に触れられて秋雨に視線を移した。


「さぁは…、それでいいの?」

「構わない。お前さえよければだけどな?」

くすりと笑った秋雨に、英も口角を上げた。
秋雨の手をきゅっと握り、頷く。


「さぁ…、お願い」

英の声にん、と優しく問いかけると、しんとした。
きゅっと握られた手を握り返す。
ひんやりとした指が、温まるように。


「お願い、抱いて…。忘れさせて…」

トン、と英がしなだれてきて、秋雨はドキリとした。
心臓が大きく動くのを感じて、一瞬手が震える。
英をそっと抱きしめて、白い額に口付けた。
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