点けっぱなしのテレビを眺める。
テレビの中では、時雨の実家である一財閥の話題がニュースで取り上げられていた。


「俺が、女の子だったら、良かったの…」

そう小さく呟いて、ベッドの中で小さく丸まった。

ガチャンと戸が開く音が聞こえた。
身体を起こして入口を見ると、隣の部屋の生徒が立っている。


「俺が…! 俺がこんなに…好きなのに!」

そうぼそぼそと呟きながら、その生徒は英に襲い掛かってきた。
着ていたTシャツを捲り上げられ、白い腹部に熱く熱を持った手が這う。
耳元で荒い息が聞こえた。


「やめ…っ、やめろ…! いやっ、いや…!」

身体中を男の手が這う。
昨夜の秋雨の手とは違う、熱くて湿った手。
身体が震えてきて、抵抗するにもまったくかないそうにない。
スウェットが脱がされて、下着も投げ捨てられた。
男の腕に、足が持ち上げられて、熱塊があてられる。


「いや…っ、さぁ…っ、秋雨…っ」


バンッと部屋の扉が開けられた。
覆いかぶさっていた男が目の前から居なくなる。
ガタガタと身体が震えて、小さくなるように自分の身体を抱きしめた。
床に転がった男から視線を外す。


「…っ」

タオルケットを持った時雨が近づいてきて、包まれた。
ぎゅっと抱きしめられたら、涙がこぼれてきてわんわんと子どものように泣く。
時雨の手が優しく背中をたたいて、その手の所為で余計に涙がこぼれた。
時雨はもう片方の空いた手で携帯を取り出して、誰かに電話する。


「ああ、急にすまん。ロイが…」

バタバタと人が入ってくる。
風紀委員長である井上が部屋に入ってきて、床に伸びた男を立ち上がらせた。
すぐにその男を連れ、部屋を出ていく。


「時雨、結華さんに連絡するんだ」

「あぁ。頼んだぞ。…英、俺の部屋に行こう」

英を立たせて、背中を支える。
ゆっくりと時雨の部屋に入った。


「結華さんが迎えに来てくれる。…寮は出るべきだな」

時雨の言葉に頷く。
暖かい飲み物の入ったカップが前に出されて、震える手で持ちあげた。
カップがカチャンと音を立てて落ちる。


「あっ…! ごめんなさ…っ」

身体が震え、涙が出そうになる。
時雨がすぐそばに寄ってきて、英の背中を撫でた。


「大丈夫。…少し落ち着こうな」

ポンポンと優しく叩く手にこくこくと頷いた。
部屋の扉が開いて、姉の姿が見える。


「英…っ」

時雨は英の身体を離して肩を叩く。
安心したような表情の英に、時雨もほっとした。


「大丈夫よ、大丈夫」

結華に抱きしめられて、英もこくりと頷いた。


「今日はホテルを借りておいたから、そのほうがいいでしょう?」

「うん」

「時雨、ありがとう」

「いや、結華さん、大丈夫ですか」

「父に言わずに出てきたから心配だわ」

「家が呼び出したことにしておきます」

ありがとう、と結華が言ったのを聞き、英を立たせる。
結華は再度時雨に礼を伝え、部屋を出た。

表に止めていた車に乗り込む。
窓の外を眺めていたら、涙がこぼれた。
隣に座っている姉も、涙をこぼしている。


「ごめんね、私の所為で…」

首を振って、結華の手をぎゅっと握った。
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