切なさ+熱=息苦しさ *
「点呼、終わったよ」
「おう。…まだ風紀委員長がやってんのか?」
「うん」
「じゃあ、井上か…。バレただろうな」
秋雨の言葉にはっとする。
そうみたい、と返事をして、くすりと笑った。
井上は見逃してくれたようだ。
「…このままシャワー浴びて寝るか」
こくりと頷いた英の頭を撫でる。
それから、英の服に手をかけた。
「…ん」
酒が回っていて身体が熱い。
秋雨の指先が白くあばらの浮き上がった胸部を掠めた。
促されてシャワー室に入る。
蛇口を捻り、お湯を浴びた。
「はな、髪洗ってやる」
英をシャワーチェアに座らせて、シャンプーを手のひらに広げる。
細く、柔らかな髪に泡立ててから指を通した。
「さぁ…」
「ん?」
「なんにもない」
「変な奴だな」
髪を洗われるのは、物覚えがついてからは初めてのような気がする。
その感触が気持ちよくて、目を細めた。
髪を乾かして、ベッドに横になる。
ぼんやりとテレビを眺めていると、秋雨が窓を閉めた。
それから、奥へ行くように促して、英は言うとおりにする。
隣に座って大きく息を吐き出した秋雨の茶色い髪を見つめた。
「さぁ、明日帰るの…」
「仕事の手伝いあるから帰るよ」
「…やだ」
「やだじゃねえよ」
苦笑しながら、英のほうを向く。
頭を撫でて、頬をくすぐった。
ごめんな、と謝って、頬を何度も撫でた。
英がゆっくりと体を起こす。
それから、秋雨の肩を押して、壁に押しつけた。
「…どうした?」
困ったように笑う秋雨が、どこか大人びていて、苦しくなる。
秋雨の太ももに乗って、キスをした。
どこか酒の味がして、身体が熱くなる。
身体を摺り寄せると、秋雨の手が戸惑ったように震えて背中に触れた。
英を抱きしめて、背中をさすった。
「好きなようにしな」
そう囁くと、英の頬から冷たいもの落ちた。
震えた指先が身体に触れて、その指に答えるように秋雨も触れる。
切なさと、熱がないまぜになって、苦しさを生み出す。
「…ごめんね」
小さな謝罪を聞きながら、秋雨は英を抱いた。
目が覚めると、隣にはもう秋雨はいなかった。
ただ、冷たくなったシーツだけ。
ぽたぽたと落ちてくるものに、そっと目をつむった。
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