安心

『どう? 寮生活は』

「順調だよ。…父さんたちにおびえなくていい面ではとっても快適」

『そう、良かったわ。あなたが楽しそうで姉さんは安心したわ』

談話室のソファーで姉と電話をする。
もう寮に入ってから2週間近く経っていた。
真っ暗なテレビから視線をそらすと、時雨の姿が見える。


『じゃあね、英』

「うん。またね」

携帯を閉じて、時雨に笑いかける。
傍に来た時雨は、飲み物を買っていた。


「時雨さん」

「よ。大丈夫か?」

「大丈夫です。時雨さん、最近生徒会忙しいんですか?」

「まあな」

そう言って笑う時雨は、英の隣に腰を掛けた。
手持無沙汰で携帯をいじっていると、時雨が笑うのが聞こえる。


「…飲み物買いにきたら、姉さんから電話来たんです」

「結華さん、心配性だもんな」

「はい。…でも、安心したようです。寮に入ってよかった」

ペットボトルの口を開け、一口飲み込む。
ほっと息をつくと、時雨も缶コーヒーを呷った。


「秋雨が今度の土曜、来るって」

時雨の言葉に、英の顔が明るくなった。
嬉しそうな様子を見て軽く笑って時雨は立ち上がる。
それから英の頭を撫でた。


「みんな、俺の頭、撫でるんですけど」

「触り心地がいいんだよ」

くすくすと笑いながら、英の頭から手を放す。
英も立ち上がり、携帯をポケットにしまった。


「本当は生徒会長として止めるべきなんだろうけど、秋雨、お前の部屋に泊まるってさ」

「…ありがとうございます」

「まあ、俺も遊びに行くけど、構わないか?」

「はいっ。待ってますよ」

「ああ。酒盛りだなー」

嬉しそうにひらひらと手を振る時雨に、手を振り返して、英も部屋へ向かった。
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