耳元に光るのは
時雨×椿
旧サイトhit記念小説
「時雨さん」
ソファーでテレビを見ていたら、椿が寝癖をひょこひょこさせながら小走りで寄って来た。
風呂上りで、今日はロイが風呂を上がるのを待っている。
待っていたはずのロイは、椿の後から来る気配がない。
「座りな、…ロイは?」
そう促すと、椿は直に時雨の脇に座り、ロイの行方を話した。
「ロイさんもお風呂」
たどたどしかった日本語も大分なれ、今では多少文脈がおかしくても早く話せるようになった。
時雨は少し思い出し笑い、椿の濡れた髪を撫でる。
それから、肩にかかっていたタオルで髪を乾かした。
「椿、少し髪が伸びたね」
「うん、ちょっと伸びた」
乾いた髪にそっと口付けて、椿を抱き上げ膝の上に乗せる。
椿は嬉しそうにきゅっと目を細めた。
最近、笑い方が秋雨に似てきた気がする…。
、と、時雨はまた笑った。
「時雨さん、」
椿は時雨に小さく細い腕で抱きつく。
スキンシップの少ない椿が、珍しく自分から抱きついて来たことに時雨は少し驚いた。
「どうした?」
「、ぴあす」
「ピアス?」
久しぶりに、椿の拙い言葉が落ちる。
それから、椿の細い指先が時雨の耳に触れた。
耳元にはシルバーのピアスが輝いている。
もう1つ穴を開けようと、この間買ってきたピアッサーが机の上においてあった。
「時雨さん、痛くないの?」
「あぁ、痛くないよ。開ける時は痛いけど、開けた後は痛くない」
「…、僕も開けられる?」
「開けたいの?」
椿の微かな希望を垣間見て、時雨は思わずいぶかしんだ。
ピアスを開けるのは別に悪くは無いけれど、多少は痛みを伴う。
その為、余り推奨できない。
「痛いよ?」
「…痛くてもいいから、時雨さんと同じにしたい」
そっと、椿の細い体を抱きしめて耳元へ口を寄せる。
可愛い事言ってくれる…と頭の中で考え、テーブルの上においてあるピアッサーを手に取った。
箱から取り出して、椿に見せる。
「これでも、大丈夫?」
「う、ん、平気」
椿の耳元に軽く口付け、ピアッサーをセットした。
椿は、目をきゅっと瞑って耐えている。
「椿、目開けて」
ふるふる、と震えている瞼が少しづつ、開かれて、時雨はそっとその瞼に口付けた。
それから、深く口付ける。
「ん…、ん…、ぁ」
時雨からの口付けに夢中になっていると、少し耳が痛んだ。
それから、離れていった時雨の唇を追って、自らちゅ、と軽く口付ける。
「開いたよ」
そっと告げると、椿は自分の耳元に触れる。
耳元には小さなピアスが付いていた。
「綺麗だよ。今度おそろいのものでも買いに行こう」
「うん、時雨さんと同じの…」
嬉しそうな椿に、時雨も笑みを零した。
それから、そっと口付ける。
耳元で、小さなピアスが綺麗に輝いた。
end
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