洋梨の香りがしたの おまけ
おまけ
「んー、珍しいね、全員が休みなんて」
「うちの学園は、臨時休校だったから…」
「臨時?」
「いま、学園荒れに荒れててさー。なんか、理事長の連れてきた甥っ子が…」
と、秋雨とロイがリビングでくつろぎながら会話をしているのを、時雨と椿が聞いていた。
時雨はもともと休みで、秋雨も今日は出勤する必要がなさそう、いい秘書を持ってよかったーと、所謂サボリ。
と言ったわけで、真昼間から全員が集合していた。
「それにしても、ロイのところ大変そうだなー」
「まあねー…。何もかもあの理事長の甥っ子が悪いんだよーあはは」
「黒い…笑みが黒いよ」
「あ」
「ん? 時雨? どうした?」
秋雨とロイの会話の途中、時雨が思いだしたかのように、あ、と声を上げた。
椿もその声に思い出したかのように、立ちあがる。
「椿…」
名前を呼ばれただけで、こくんと頷いた椿は、そのままリビングへ向かった。
「なんか、恋人っていうより長年連れ添った夫婦みたいだな」
「は?」
秋雨の言葉に眉をひそめて聞いた時雨に、ロイも思わず笑ってしまう。
「言葉にしなくても伝わっちゃうー」
「まさに、熟年夫婦」
「…お前らは親子の猫みたいだ」
「お、おやこ?」
「ロイがかいがいしく世話を焼く母猫で、秋雨は手間のかかる馬鹿子猫ってところだろ」
「どこ見て言ってんだよー」
「日ごろの行いだろ」
戻ってきた椿により、不毛な会話が打ち切られ、ガラステーブルの上に丸い容器が置かれていった。
それを目にした時雨は椿の頭を撫でて、おいしそうだ、と声に出す。
椿は嬉しそうに微笑み、小さめのデザート用のフォークを手に取った。
「洋梨のコンポート? …おいしそうだよ、椿君」
「ロイさん、ワイン、ちょっと入ってるけどだいじょうぶ?」
椿がロイを心配そうに見ていることに、秋雨がげらげらと笑った。
時雨も笑いながら椿に言う。
「大丈夫だよ、ロイ、そこまで弱くないから…早く食べよう」
「ん、わかった」
安心した椿は、すぐにコンポートにフォークをさした。
適当なゆるい会話をしながらコンポートを食べる。
甘い、洋梨の味に舌鼓を打った。
「やっぱ、椿ちゃんの作るものはおいしいー」
「そうだね」
「椿、美味しいよ」
「ありがと…」
と、穏やかな午後を過ごした4人。
時雨は昨日の静かな午後を思い出し、一人笑みを浮かべた。
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