洋梨の香りがしたの

時雨×椿
素敵お題サイト様 Discolo 鮭様


洋梨の香りがしたの

甘い、あまい香り

ねえ、キッチンに来て、



「ん? …椿?」

休日、暖かい午後。
時雨は書斎のソファーの背もたれに、体を預けながら隣の温もりを探した。
起き上がってみれば、いつもは隣にいる存在がいない。
その代り、書斎の扉の向こうから甘い香りがする。
甘い香りに、椿の居場所を見つけて、時雨は小さく笑った。
書斎の扉を開ければ、甘い香りが増す。


「ふあ…」

眠たそうな欠伸を聞いて、もう一度笑う。
椿は、キッチンのイスに座っていた。
その手には、椿お手製のレシピノートが開かれている。


「椿」

時雨の呼び声に眠たそうな椿が振り返った。
振り返った椿にそっとおはようのキスを与える。
それから、椿の手にあるノートを覗きこんだ。


「洋梨のコンポート?」

「洋梨、さぁさんがくれたの残ってたから」

「ああ、あの山ほどくれたやつね」

「腐りそうだったの」

「そうか、だからコンポートね」

「きらい?」

「好きだよ」

好きだよ、と伝えるのと同時に額に口付ければ、椿が小さく笑った。
それから、レシピノートを調理台に置き、洋梨のほうに顔を向ける。
時雨がそっと椿の背中を押して、リビングにいるから、と伝えた。
椿はこくんと頷いてから、洋梨に手を伸ばす。
いくつか取り出して置き、バニラビーンズを取り出した。


「バニラビーンズ…」

まず下準備に、取りだしたバニラビーンズを縦に切り込みを入れてから2から4等分に切った。
それから、洋梨を縦に6から8つに切り、皮を剥いて芯をとる。
下準備が終わったら、ステンレスの鍋を取りだす。
取りだしたステンレスの鍋に、材料を一通り入れて、強火にかけた。
沸騰直前に、木ベラで混ぜながらふやかしたゼラチン5gを加えて溶かす。
それから、沸騰したコンポートの煮汁に、洋梨を入れた。
後はオーブンシートの落としぶたをして、10分から15分煮るだけ。
椿はタイマーを掛けて、キッチンに置いてあるイスに腰をかけた。


「椿?」

キッチンからの音が小さくなって、時雨は椿のもとにやってきた。
椿は椅子に座って、レシピを見ている。


「終わった?」

と声をかければ、椿がうれしそうに振り返った。
そっとその頬へキスをし、頭をなでる。
髪を梳く手に椿がすり寄ってきた。


「まだ終わってないみたいだね」

「もう少し…、食べれるのは明日なの」

「そっか、明日か。…楽しみにしてる」

「うん」

そういって、時雨はソファーに戻っていった。
すると、丁度タイマーが音を立てる。
火を止めて、鍋底を氷水で冷やす。
そのまま粗熱が冷めるまで待った。
少しトロミがついてきてから、冷蔵庫に入れる。
あとは、明日まで味がしみ込むのを待つだけ。

おわったー…。と、一息吐くため、椿は時雨のもとへ駆け寄った。
ソファーに腰を掛けている時雨は、本を手にしながら眠っている。


「ぐっすり…」

小さく呟いたら、時雨が身じろぎした。
少しだけ寒そう眉間にしわを寄せている。
椿ははっと、顔を上げ書斎に急いだ。


「ぶらんけっと」

いつもは自分が使っているブランケットを手に取り、椿は時雨のもとへ戻った。
それから、時雨にそっとそれをかける。
時雨の眉間のしわがとれるのを見て、満足し、椿は自分もと時雨の隣に座った。
時雨が起きない程度に、頭を寄せて自分も目をつぶる。
すぐに眠気がやってきた。




ふわふわと揺れる感覚で目を覚ました。
不安になり、揺れの原因を見てみると、時雨が椿を抱き上げている。
あ…と小さな声を漏らせば、時雨が椿をのぞきこんだ。


「ベットに運ぼうと思ってたんだけど、起こしちゃったね」

「ん…、んう」

「まだ眠たい?」

「んーん」

ん…と唸っていると、時雨が笑いながら書斎に行こうか、と書斎の戸を開けた。
椿をソファーに下ろし、時雨は先ほど読んでいた本を棚に戻す。
それから椿の頭をわしゃわしゃと撫でて、ソファーに座った。


「こんぽーと、あしたたべれるよ」

「コンポート? …そっか、作り終わったんだね」

「ん、しぐれさん、たのしみ?」

「うん。椿が作るものはどれもおいしいからね」

「うれしい…、僕も、時雨さんの作るご飯もすき」

「秋雨やロイの作るご飯も好きでしょ?」

「んーん、時雨さんのが一番すき」

「嬉しいよ」

そんなことを話して居るうちに、また椿がうとうとと舟を漕ぎ始めた。
髪に口付けをすれば、洋梨の香りが鼻腔を擽る。


洋梨の香りが、穏やかな日を感じさせた。




洋梨の香りがしたの

甘い、甘い、優しい午後の香り

早く明日になって、甘い香りをもっと味わいたい。


穏やかな、午後に。



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