Trick or Treat
時雨×椿
「Trick or Treatっ」
元気な椿の声で、時雨は今日が何の日か思い出した。
Trick or Treat
ああ、ハロウィンか。
そう思った時には、もう椿に例のセリフを告げられていて、時雨はポケットの中を探った。
生憎お菓子は持ち歩いていない。
デスクの上にも、丁度切らしていて、甘いものなど置いていなかった。
どうしたものか、と、椿に視線を移すと、椿が嬉しそうにきらっきらと目を光らせている。
「椿、ごめん、お菓子持ってないや」
「じゃあ、いたずら?」
「どんないたずらするの?」
「んー、かんがえてないの」
「考えてなかったの?」
「…うん」
灰色の髪がさらさらと揺れる。
それを眺めていると、椿は楽しいのかふふ、と小さく笑った。
椿の服は、ハロウィンを意識しているのか、コスプレチックだ。
黒いパーカーの帽子には、ひょこん、と猫の耳がついている。
もこもこ生地ズボンは膝より少し上で、これまたもこもこのニーハイをまとっていた。
なんとも可愛らしいズボンのお尻の部分には、ふわふわ揺れるしっぽまでついている。
「つ…椿、その服、誰からもらったの?」
「ロイさんからもらった」
「さぁじゃなくて?」
「さぁさんじゃなくて、ロイさん」
椿の可愛さにくらり、ときながらも、時雨は椿を抱き上げた。
ほっそりとした椿の体が、きゅっと時雨にしがみついてくる。
リビングへ2人で行き、カーペットの上に椿をおろす。
それから時雨も椿の隣に腰をおろした。
「椿、いたずらしていいよ」
「いいの?」
「うん。どうぞ」
にっこり、と笑みを浮かべながら、両手を開くと、椿がきゅうっと笑みを作って、時雨の腕の中に飛び込んだ。
それからパーカーの帽子をかぶって、すりっとす時雨の頬にすり寄る。
「にゃあ」
「…椿は猫なの?」
「にゃー」
「可愛いね」
ちゅっと、下唇を吸うように、椿から口付けされる。
確かに、いたずらになるな
と、小さく笑うと、腕の中の椿に震動が伝わったのか、もう一度すり寄ってくる。
可愛いいたずらは、そのあと何回か、小鳥のような口付けで終わった。
「あー、いたずらにしては、ちょっとうれしいね」
「嬉しいの?」
「ん?可愛い椿にいたずらされるのは、嬉しいよ?」
「?」
帽子をかぶったまま、こてん、と首を傾げると、可愛い猫の耳まで、ひょこんと揺れる。
まるで、本ものの子猫のようで、時雨は椿の喉元をさらさらと撫でた。
「椿…俺からも」
「?」
「Trick or Treat」
end
おまけ
「Trick or Treat」
時雨がそう椿に伝えたところ、椿はふにゃん、と笑みをこぼした。
それから、ごそごそとパーカーのポケットを探る。
どうしたことか、とその様子を眺めていると、椿のポケットから、やけに膨らんでいるのに気づいた。
ぽろ
ぽろぽろぽろ
あふれてきたのは、大量の飴玉。
してやられた、と時雨は、思わず笑みをこぼした。
「誰から飴もらったの?」
「さぁさんがくれたの。とりっくおあとりーとって言われたら、これをあげるんだよって」
「そっか」
ちゅっと椿の髪に口づけてから、時雨はカーペットに落ちた飴玉を口に放り込んだ。
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