灰色
時雨×椿
お昼時、書斎で椿と時雨は本を読んでいた。
ソファーに並んで腰を掛け、本を読む。
すると、椿がやたらと頭を軽く振っていた。
「どうしたの? そんな、ふるふるして」
「髪が…」
長くなった顔のラインを覆う髪が邪魔らしくて、椿が悲しそうな顔をした。
その顔を見て、時雨は思わず笑ってしまう。
「腰まで伸びてるからね。髪切る?」
「きる…?」
「そ。首元ぐらいに切っちゃおうか」
「うん」
椿の承諾を得て、時雨は椿を抱き上げた。
リビングに移動し、新聞紙を床に敷く。
それから、簡易イスをたて、椿をそこに座らせた。
髪が服につかないように、ケープを掛けて髪を梳く。
「俺の好きなように切ってもいい?」
「時雨さんの好きなように…?」
「そう。ずっとさ、椿の髪が綺麗で切ってみたかった」
「綺麗…お願いします」
「お願いされました」
リビングに日差しがさし、椿の灰色の髪当たってキラキラと輝く。
長い髪を切っていくうちに椿がうとうととし始めた。
「危ないから、寝ちゃだめだよ」
「う、ん」
腰元まであった長い髪が、肩甲骨まで短くなった。
椿も頭が軽くなったのか、ほっと息を吐く。
「もっと切ってもいい?」
「うん、時雨さんの好きがいいな」
「俺の好き?」
「時雨さんが、好きな髪にしてほしい」
「そっか。…うんと、可愛くしてあげるね」
「うん」
椿の頬が嬉しそうに赤く染まるのを見て、時雨は思わず微笑んだ。
それから、椿の綺麗な項をさらすぐらいまで髪を切る。
首元まで来たら、前下がりになる様に切っていった。
「そろそろいいかな、前髪も少し切ろうか」
時雨の声に椿は少しだけ身じろぎした。
前髪も少しだけ短くするため、椿の前に立つ。
嬉しそうな椿と目が合い、時雨は椿の頬に口付けた。
それから、ちゅっと小さな音を立てて唇を触れ合わせる。
「目を瞑っていて」
「ん、」
首元まで伸びていた前髪を耳の高さまで切る。
それから、少しだけ髪をすかした。
顔についた髪を払い、ふっと息を拭きかければ椿が驚く。
「ひゃっ」
「可愛い声出して。ほら、終わったよ」
時雨がそう言いながら鏡を見せてくれた。
だいぶ髪は短くなり、印象ががらりと変わる。
前までは髪が長くて幼い少女の様な印象を与えたが、今は可愛らしい少年のようになった。
長かった前髪に隠れていた青色の瞳も綺麗に映える。
「椿、綺麗だ…、すごく」
そっと椿の頬に触れ、優しく撫でれば椿は猫のように頬を摺り寄せる。
そんな様子を愛おしく思い、時雨は椿に口付けた。
灰色が、床に零れおちてきらきらと輝いていた。
end
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