朝焼けに浮かぶ
時雨×椿
旧サイトキリリクから
時雨は暗い道中、車を走らせていた。
明日から二日の休日。
前々から旅行の予定を立てていて、待ち待った休日が目前に迫っていた。
時雨が家に帰ったら、二人で直にまた家を発つ予定。
可愛い恋人が家で待っている、と思うと足取りも自然と早くなる。
携帯で一応、もうすぐ着くから、仕度しててねと連絡を入れた。
「ただいま」
と、玄関を開けて自宅へ入れば、大き目のセーターを着た椿が駆け寄ってきた。
そんな椿を抱き上げて、額へ口付ける。
「お帰り、時雨さん」
ふわっとはにかむ椿に、時雨は足早にリビングへ向かった。
廊下は冷えるから、温まったリビングへ早めに椿を連れて行きたい。
「秋雨達はどこいったの?」
「さぁさん達もちょっとお出かけだって、ゆってた」
「そうか、もう出たんだな?」
こくん、とうなづく椿に、時雨はそっと、頭を撫でた。
長い灰色の髪は、さらさらと時雨の手に音を立てる。
「椿、仕度できた?」
「うん、かばんの中に入れた」
そういいながら、頬を染めて嬉しそうに伝えて椿には大きい鞄を必死に抱えてる。
その大きい鞄を椿から受け取り、中身を確認した。
「…椿、この抱き枕は持っていけないかな」
「持っていっちゃだめなの?」
最近、買ってあげたファンシーな抱き枕が椿のお気に入りで、それがどんっと鞄の中に居座っていた。
持っていけないと伝えたら椿は、しゅん、と眉を垂らす。
時雨は思わずきゅっと椿を抱きしめた。
「時雨さん?」
「いや、ごめん…、持ち物は大丈夫そうだね。あとは、もう少し暖かい格好していこうか」
「まふらーと、うわぎ」
椿が、ソファーにかけておいたらしく、直にぱっと時雨に見せる。
時雨がなにこの可愛い生物、とか脳内でもんもんとしていたら、椿が直に、温かい上着を羽織った。
椿にソファーに座って待つように促してから、自分もスーツから着替えに寝室へ向かった。
着替えて戻れば、椿がちょこんとソファーに正座している。
「よし、椿行こうか」
「うん!!」
嬉しそうに目を輝かせる椿に、時雨は旅行の予定を立てておいてよかった、と微かに思った。
目的地に向かって、車を走らせる。
「わ、時雨さん、いっぱい光ってるよ」
「車のライトだよ。夜だと綺麗に見えるね」
「うん、すごい」
「夕飯は食べた?」
「うん、食べた。今日は、野菜のスープだった」
他愛の無い会話をしてたら、直に、初めに寄る予定のパーキングに着いた。
二回目のパーキングで休憩する予定。
適当に飲み物や、軽いお菓子を買って直に車をまた走らせる。
大分進んだところで、椿がうとうとし始めた。
それもそのはずで、もうとうに2時を超えている。
「椿、眠っていいよ」
「んー…」
すこしぐずる椿の頬を、そっと左手で撫で、眠るのを促した。
2回目のパーキングで時雨も睡眠をとって、椿が起きる前に旅館に着くように、車を走せた。
「き、…椿」
眠っている椿を起こし、着いたことを告げた。
椿はまだ眠たい、とでも言うように目をこすっている。
眠たそうな目が、外を視界に捕らえた。
「わ…、りょかん」
「旅館だよ。今日と明日はここで泊まるんだよ」
「わぁ、すごい、」
「ほら、入ろう」
そういって、椿を車高の高い車からおろすと、旅館の大玄関へ向かった。
大玄関は落ち着いた感じ。
中に入れば、仲居の人と女将が、いらっしゃいませ、とずらっと並んでいる。
椿は圧倒されたようで、時雨の傍にすっと寄った。
「一様、お久しぶりです。お待ちしておりました」
「久しぶりです、相変わらずいい玄関ですね」
「ええ、旦那様も、先日お越しくださいましたよ」
と、出迎えてくれた女将と喋っていたら、椿がきゅっと腕にしがみ付いてきた。
女将は椿に目を向けて、微笑む。
「椿、女将さん」
「おかみさん、」
女将さんはさっと自己紹介して、部屋へ行くように進めた。
案内役の人に連れて行かれた部屋は、窓の大きな部屋。
窓は、障子で塞がれている。
けれど、落ち着いた内装で、椿はほっと息をつく。
「ごゆっくり、どうぞ」
仲居の人が出て行ったのを確認して、時雨は椿を連れて窓まで歩んだ。
障子をすっと開ける。
「わ、まぶしい」
椿が、きゅっと目を瞑る。
大きな窓は出窓状で、腰がかけられる。
そこへ椿を抱き上げ、座らせた。
「目、開けて外見てご覧」
時雨の言葉にそっと目を開くと、海がキラキラと輝いている。
椿はぺたっと窓へ近づいた。
「うみ?」
「そう、海だよ。後で、行こうか」
「うん、…、あ」
椿が、時雨のほうへ視線を向けたら、時雨はちゅっと軽く椿の目頭へ口付けた。
それから、順々に下の方へ唇を落としていく。
「ん、…、しぐれさん、」
椿が甘い声で名前を呼ぶのを聞き、時雨はそっと唇へ自分の唇を寄せた。
柔らかい唇に何度も口付ければ、椿が息を吐く。
「久しぶりだったからびっくりした?」
「う、ん、…ちょっとびっくりしたぁ…」
柔らかい声が、時雨の口付けを促した。
息をつく間を少しずつ与えながら、口付けを深める。
そっと、窓へ背中を押し付けて、さらさらとした髪へ指を絡ませた。
「気持ちよかったみたいだね」
「、しぐれさん、ちょっと意地悪だよ」
「そうか? 久しぶりに、椿とゆっくり出来るから」
「うー」
恨めしげに見上げてくる椿に、時雨は意地悪い笑みを浮かべた。
二人が付き合うようになってから、椿もびくびくすることも少なくなって、時雨も椿の変化を快く思う。
そういったのが、こういった、恋人らしい行為で分かる為、この行為が時雨にとっては大切なもの。
「荷物も置けたわけだし、そろそろ出かけようか」
[prev] [next]
戻る