新緑の中で-5-

旅館をチェックアウトしてから、風太の車で4人は海沿いを走っていた。
窓を開けて海風を感じながらドライブを楽しむ。


「天気に恵まれたよな」

「ああ、そうだな。去年は結構荒れたからなァ」

前に乗ったふたりが話すのを聞きながら、汰絽はむくの髪の撫でる。
指の隙間をすり抜ける髪はとても柔らかい。


「たぁちゃん、見て! 船!」

「ほんとだ。むく、小さいときあの船乗ったんだよ?」

「そうなの?」

「うん。おばあちゃんと3人でね」

そうなんだ、と話す汰絽とむくは窓の外を眺めている。
今日は波も穏やかで、船の上もさぞかし心地よいだろう。
ある程度車を走らせたところで、海岸に降りることになり車を停めた。
そこは人気が少ないところで、4人は車から降りてからうんと背伸びをする。

汰絽とむくは車から降りてから波打ち際を歩きながら、楽しそうに笑っていた。
風太と壱琉は砂浜に腰をおろし、煙草を吸う。
戻ってきたふたりが靴を脱ぎ、風太たちの傍に残してまた波打ち際に戻った。
ジーンズの裾を上げる姿を見ながら、ふたりは思わず笑う。


「仕草がさ、たまにそっくりなんだよな。たろとむく」

「それ、今俺も思った。…怒るときとか似てるんだぜ。こうむっとした顔するのが」

「はは」

壱琉の顔が、いつものひねくれたような顔ではなくて、とても優しい顔になっているのを見て、風太は思わず笑う。
それから、海に足先を入れてるふたりの姿を見た。


「俺も行くわ」

そう言って立ち上がってから、むくを呼び、風太は汰絽の元へ行った。

壱琉の元に戻ったむくは、汰絽のカバンから汰絽の携帯を取り出した。
それから、波打ち際を歩く親代わりのふたりの写真を撮る。
白いパーカーがとYシャツが風に揺れて綺麗だ。


「たぁちゃん、しあわせそう」

「そうだな。むくは幸せか」

「うん。たぁちゃんが笑っているのが一番幸せ。…あとね」

そう言って黙ったむくの顔を見る。
照れているのか、まっすぐに親代わりを見ながら、口を開いた。


「壱琉と一緒にいるときも一番幸せだよ」

そう言って、むくはもっと近くで撮ってくる、と立ち上がった。
可愛いことを言って逃げてくれたな、と壱琉はにやつく口元を押える。
それから煙草を空き缶に入れてからむくを追いかけて、抱き上げた。
ぐるぐると回してから、下ろすと、むくは顔を真っ赤にして壱琉の胸を叩いた。


「もーっ」

怒っていても、嬉しいと思っているのが分かり、壱琉は声をあげて笑った。



「風太さん、お誕生日おめでとうでした。これからまた、よろしくお願いします」

「ああ。こちらこそよろしくお願いします」

青空の下、青い瞳が弧を描いた瞼に少しだけ隠れる。
ふふ、と思わず笑いがこみあげてきて、風太の胸に額を寄せた。


「また、来年も」

そう囁くと、浜の方からどさっと音が聞こえてきた。
そちらに視線を向けると、壱琉とむくが大の字で砂浜に寝転がっていた。

新緑の中で end
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