新緑の中で-4-

むく達も露天風呂から帰ってきてから、祭りのやっている土手に来た。
川の脇の土手を歩くと、夜店が見えてくる。
汰絽は風太にぴったりとくっつき、そっと風太を見上げた。


「どうした」

「いいえ」

「変なたろ」

そう言う風太の顔はとても優しくて、汰絽は少しだけ恥ずかしくなる。
誰にも気づかれないように小指をそっと絡ませると、ふたりだけの秘密みたいでくすぐったい気持ちになった。
後ろの方を歩いているふたりは祭りに夢中になっている。


「東条が言ってたみたいに、少し髪が伸びたから、ぱっと見女の子みたいだ」

「風太さんまで」

「だから、もっとしっかり手、つないでもいいぞ」

風太は汰絽の頭を空いた手でいつもみたいに撫でる。
その大きな手にきゅうっと胸が締め付けられて、汰絽はなんだか泣きたい気持ちになった。


「これで、いい。ふたりだけの秘密、みたいだから。これがいいな…」

小さな声でそう呟くと、風太はそうか、と言って笑った。
きゅっと目を瞑って笑う姿に、汰絽も笑い返す。
この人を好きになってよかった。
風太の笑う姿を見ると、いつもそう思う。


「あー、ほんと、何年たっても可愛いな」

そう呟く風太の小指の力が強くなった。



「壱琉、見て。綿あめ」

「食べたいか?」

「うん。水色のがいい」

「わかった。…この水色のひとつ」

財布からお金を出して、綿あめを買う。
少し離れたところで袋から取り出して、むくに手渡すとむくが満面の笑みを浮かべた。


「むくね、わたあめだいすき」

「知ってる」

「いちるも好きでしょ?」

「まあな。だからちょっとくれよ」

「ん」

さきにむくが食べてから、壱琉は差し出された綿あめを食べる。
ブルーハワイ味のそれは、普通の綿あめとあまり変わらない。
嬉しそうに綿あめを食べるむくの姿を見ながら、壱琉はゆっくりと歩いた。


「ゆうちゃんがね、前ピンクの食べてた」

「へえ」

「これはあんまり味がしないけど、ピンクのやつはちゃんと苺の味した」

「じゃあ、ピンクのにすればよかったんじゃね?」

「水色が食べたい気分だったんですー」

「そうですかー」

むくの口元についた綿あめを指先でとってから口に含む。
甘いサトウの味が口の中で広がって、まるでむくみたいだな、と思った。
不意にどおん、と大きな音がして、ふたりは顔を上げた。



「あっ、もう始まりましたね」

「そうだな。おおー」

次々と上がっていく花火を見上げ、ふたりは歓声を上げた。
後ろを向くと、むくと壱琉がいろいろ食べ物を持ってくる姿が見える。
向こう、と神社の方を指さしてから、ふたりは先に歩き始めた。
祭りの昂揚感と、夜店のオレンジ色の明かりが綺麗で、休日という心地よさを感じる。

神社の石段に腰を掛けると、ずっと前の方にもカップルが腰を掛けていた。
後からきた壱琉とむくは汰絽たちの前に腰をおろしてたこ焼きを広げている。
花より団子だな、と思いながら、汰絽は隣の風太を見た。
花火が上がるたびに、風太の顔に色がうつる。
その様子を少し眺めてから花火に視線を移した。


「こんな風に遠出することが少ないけれど、またこうして来れればいいな」

「そうですね。…ゆっくりしてるのも好きですけど、こういうのもいいと思います」

「ああ」

小指だけ繋いでいた手をそっとはなしてから、指先を絡めた。
風太の膝にその手を乗せて、身体を寄せる。
薄いパーカー越しの温かさに頬を緩めながら、汰絽は花火を見上げた。
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