新緑の中で-3-

旅館に戻った4人は、部屋でのんびりと過ごしていた。
この後は、この村で小さな祭りがあるようなので、そこで上がる花火を見に行く予定だ。
むくのそわそわする姿を見ている壱琉が優しい顔をして、汰絽は風太と顔をあわせる。


「たろ、風呂入ってくるか」
「そうですね。お祭りの前に入ってきましょうか」

風太が立ち上がったのを見て、汰絽はカバンを引き寄せる。
カバンの中から必要なものを取り出してから立ち上がった。
じゃあ、先にお風呂入ってきます。
そう告げてから、ふたりは部屋を出た。

残されたふたりはどうしようか、と顔を見合わせる。
あのふたりもふたりきりになりたかったのか、と思いながらむくは壱琉のそばに寄った。
テレビをつけてから壱琉の股の間に入り、背中を預ける。
壱琉はむくの腹部に手を起きむくの髪に顔をうずめた。


「なあに、甘えん坊さんみたい」

「お前こそ。普段ふっついてこないくせに」

「んー? そんなことないよ」

後ろの壱琉の体温を感じながら、むくはそっと目を瞑った。
心地よい居場所。


「むく、好きだ」

「うん」

「好きだ」

「知ってる」

むくの耳が真っ赤になっていることに気付いて、壱琉は小さく笑う。
蜂蜜色の髪に口付け、壱琉はむくを抱きしめた。


露天風呂は貸し切り状態で、風太と汰絽は歓声を上げた。
肌寒いくらいの気温に湯船の温かさが風で伝わってくる。
ふたりは洗い場で座って、身体を洗い始めた。


「貸し切りですね」

「そうだな。まあ、この時間帯だしな」

髪も身体も洗い終えた風太が、汰絽の後ろに立つ。
それから洗いかけの髪を、大きな手のひらが指を立てて洗い始める。
汰絽は泡のついた手を洗って、ふう、と息をついた。


「んー、きもちい」

「そうか。最近一緒に入ってなかったから、お前の頭洗うの久しぶりだな」

「言われてみれば、そうですね。風太さんの手、好きです」

風太の笑い声を聞きながら、目を瞑る。
マッサージをするように動く手が心地よくて、眠たいような気持ちになった。
ぎゅっと目を瞑るように言われて、目を瞑ると温かいお湯が頭の泡を流す。
綺麗に泡が流れ落ちたところで、風太が持ち込んだフェイスタオルで頭を拭いてくれた。

湯船に入ると、思わず心地よさからため息をついた。
汰絽はごつごつとした岩に腕を組み、頬を乗せ外の景色を眺める。
青々とした木々が綺麗で、感嘆の声が漏れた。


「いい感じだな」

「はい」

「連れてきてよかった」

「ふふ、連れてきてもらえてよかったです」

ぽんぽんと頭を撫でられて笑う。
風太は、そっと顔を近づけ、汰絽の唇に自分の唇を触れさせた。


「ん、」

「顔真っ赤」

「あったかいですし」

「そうですね」

「夕日」

「そうですね」

照れたように顔を伏せる汰絽に、風太は小さく笑う。
可愛いな、と思いながら、もう一度汰絽にキスをした。
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