新緑の中で

5月突然のリクエスト祭り
風太×汰絽、壱琉×むく ダブルデート


「わあっ、たぁちゃん! 海だよ! 海っ」

むくの歓声を聞いて、汰絽はむくの声の元へ向かった。
靴を下駄箱に入れてから、かけていくと、障子を開け放ったむくが出窓に乗り上げ外を見ている。
隣にきた汰絽に笑いかけると、汰絽も出窓に腰を掛け、窓の外の海を眺めた。


「こんな高そうな旅館、いいんですか?」

「社長夫人がそんなこと言うなよ」

そう言いながら入ってきた風太は汰絽の傍に来ると、おーっと声をあげる。
後から入ってきた壱琉もむくの腰を抱き、窓の外を見た。


「一息ついてから海行くか」

「うんっ」

むくと壱琉が海を見て会話している間に、汰絽は腰を上げて備え付けのお茶を入れる。
お茶も高級のもののようで、とてもいい香りがした。
そっと4人分を淹れた汰絽はお茶を飲みながらほっと息を漏らす。


「おっ、さんきゅ」

隣に来た風太は汰絽のお茶を飲む。
テーブルに置かれた饅頭を食べると、甘いあんこの味が口の中に広がった。


「むくも食べる」

そばに来たむくは、饅頭を手に取って皮を向く。
壱琉の分も持って戻ったむくは出窓に腰を掛け、壱琉にそれを渡した。


「おいしい」

「こっちとそっち味が違ぇな」

「ほんと? ちょーだい」

くんっと首を伸ばしたむくの唇にちぎった饅頭を触れさせる。
桜色の唇が開き、白い歯がそれを加えた。
ゆっくりと閉められた口がもごもごと動く。


「ん、こっちもおいしい。さっきの白あんだった」

「俺にもくれ」

「いーよ」

むくも同じようにちぎって、壱琉の口の中に入れる。
咀嚼して飲み込むと、壱琉はお茶を飲んだ。


「俺はむくのの方が好きだ」

「そ? むくはどっちも好きだよ」

「ほら、残りもくれてやる」

「ありがと」

むくの空いた口に饅頭を入れる。
もぐもぐと食べるむくの頭を撫でてから壱琉は鞄をクローゼットに入れた。


「もう、甘いの嫌いなのにお饅頭なんて食べるから…」

「口ん中、すげえ甘え」

「お茶、飲みます?」

「おう、入れてくれ」

ポットから急須にお湯を入れ、少し経ってから湯呑に入れる。
息を吹きかけ、少し経ってから風太はお茶を飲んだ。


「そろっと外出てみるか。この辺は土産屋が多いからな」

「そうですね」

風太と汰絽の言葉を聞いて、壱琉とむくも頷く。
むくは鞄を担ぎ直し、壱琉の傍に立ち壱琉は財布を持った。
準備のできた4人は、部屋を出て旅館を出た。

温泉街を出て、歩く。
道の途中のお土産屋の威勢のいい声が聞こえてきた。
むくはきょろきょろとあたりを見渡していて、壱琉はそんなむくの後ろをゆっくりと歩く。
その後ろを並んで歩いている風太と汰絽は、ゆっくりと話しながら歩いていた。


「あ、これ。有名なんですって」

「へえ。砂糖菓子か?」

「はい。お土産に買ってきましょうか。つー君と有岬訓、喜ぶかな」

「かもな。甘そうだし」

ふたつ小箱に入った兎の砂糖菓子を手に取った汰絽は店番をしているお婆さんにお金を渡す。
袋に入れてもらったそれを風太が受け取り、壱琉とむくを呼ぶ。
振り返ったふたりの元に行くと、汰絽はひとつ開けてむくと壱琉に差し出した。


「お、美味いな。これ」

「ほんとだー。おいし」

小箱を閉じてから、ね、と笑う。
風太は困ったように笑ってから、汰絽の頭を撫でた。


「お前、髪伸びたな」

「そうですか?」

「ぱっと見ボーイッシュな女の子だ」

「なんですって、東条さん?」

「おっと、悪い悪い」

きっと眉をあげた汰絽に壱琉は両手の腹を見せる。
それからむくの後ろに下がり、むくもアレいるか、と耳元でささやいた。
買ってやるよ、と壱琉はその場を後にする。
ぷりぷりと怒り始めそうな汰絽の頭を撫でて、風太はほら、こんにゃくでも食べようと、良い匂いのする先を指さした。
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