こどもの日、誕生日
2014.05.05 風太誕生日
「やねよーり、たーかい」
起きてきたむくが歌を歌いながら、お絵かきをしている。
今日はこどもの日だ。
むくが主役の日でもある。
天気も良く、風は心地よい冷たさを含んでいた。
汰絽は祝日の今日も夕方からキッチンに立ち、せっせと夕食を作っている。
もうひとりの主役である風太は、むくとお絵かきをしていた。
「むく、味見して?」
「するーっ」
スープを小さな器に入れて、むくに手渡す。
熱いからフーフーしてね、と伝えてから汰絽はコンロの火を止めた。
「おいしい!」
「よかった」
「たろー、俺は?」
「風太さんは駄目です!」
キッチンへ来ようとする風太を止めて、むくに風太さんの相手していてね、と背中を押した。
むくは立ち上がろうとする風太に抱き付く。
だめーとむくが言うと風太は優しく笑いながら、むくを抱きしめた。
「できたっ。後はならべるだけですよ」
そう声をかけながら、汰絽は皿をテーブルに移した。
出来上がった料理の香りから、これが自分の好物であることはわかっていた。
それに、むくも嬉しそうに夕飯を待っている。
「いいですよ」
汰絽の声を聞いてから、ふたりはテーブルについた。
むくがわー、と嬉しそうに歓声を上げる。
風太もテーブルに並べられた料理を見ておっと声をあげた。
「グラタン。それにコーンスープにサラダ。懐かしいメニューだな」
「ええ。風太さん、好きですよね。それにむくも」
「うん」
「ああ」
コーンスープの甘い香りが鼻をくすぐる。
風太はスプーンを手に取り、いただきますと声をあげた。
汰絽はそっとその様子を眺め、それから自分も手を合わせる。
「うまい」
「そうですか、良かった」
「おう。それにグラタンも。ホタテとエビかぁ。豪華だな」
「今日はお誕生日ですし、子どもの日でもありますからね。風太さんもむくもおいしく食べられるように作りました」
「そうか。…ありがとう」
嬉しそうに頬を緩め、笑った汰絽に風太も思わず笑った。
汰絽もグラタンを食べる姿を見て、幸せを感じる。
緩やかな幸せが心地よい。
むくもおいしい、と頬に手を当てながら足を揺らしていた。
汰絽はすぐに食器を片づけ、それからさっとテーブルを拭いてから汰絽は冷蔵庫へ向かう。
それからすぐに戻ってきた汰絽は、風太とむくの前に小皿を置いた。
むくの前にはショートケーキ。
風太の前にはティラミス。
「いちご! ショートケーキ!」
「うん。そうだよ。むく、大好きだよね」
「うん! むう、いちごすき!」
「今日はこどもの日だからね」
むくの頭を撫で、それから食べていいよ、と微笑む。
ありがとう、とちゃんとお礼をしたむくはもう一度いただきますと声をあげた。
風太はその様子を眺めながらコーヒーをすする。
「俺のは?」
「風太さんは甘いのあまり得意じゃないから、ティラミス、作ってみました」
「へえ、これは俺だけの?」
「そうですよ」
「うれしい誕生日だな」
「喜んでくれてよかったです」
ティラミスを携帯で写真を撮ってから、お礼を伝える。
それからスプーンを手に取りティラミスを口に含んだ。
ほろ苦さとほんのりとした甘さ。
口に広がるその味に風太はもう一度ありがとうと告げた。
「風太、たんじょうび、おめでとー!」
「おう、ありがとな」
「むくね、ふうたかいた!」
ケーキを食べ終えたむくがむくのおもちゃ箱の中からリボンで結ばれた画用紙を手渡す。
開いていいか、と問いかけてから風太は画用紙を開いた。
画用紙にはむくの描いた自分がいる。
嬉しそうに笑っている絵で、頑張って描いたことを感じた。
「むく、ありがとうな。上手に描けたな」
「うん、頑張って描いたっ」
「後で額縁買いに行こう。俺の部屋に飾る」
嬉しそうな風太。
むくと汰絽は顔を合わせて微笑んだ。
「大成功だね」
こどもの日、誕生日 end
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