風邪ひきさん

春のリクエスト祭り
風太×汰絽


「汰絽、なんか顔色悪くないか」

「ちょっと寒気が…」

「…おでこ貸してみ」

切りそろえられた前髪をあげて、おでこをさらした汰絽。
おでこに手のひらを当ててみると、普段よりずっと熱かった。


「あー、たろ。熱あるみてぇだから、とりあえず、むく、夏翔のとこに預けるな」

「お願いします」

とろんとした瞳でソファーに横になる汰絽は、何度か咳をして目を瞑った。
夏翔に電話をして、むくに待っているように伝えたのはいいが、どうしようかと頭を抱える。
そもそも自分が風邪をひくことがないから、薬箱の場所が分からない。
とりあえず、水分補給はさせなきゃだよな…、と思い、冷蔵庫を見ると飲み物も切らしていた。
急いで夏翔に飲み物を買ってから来るように頼み、汰絽のもとに戻る。


「むくが行ったら、病院行こうな」

「…はい、あの、体温計…」

「お、おう。…えっとどこにある?」

「そこの、棚の上に…」

「ああ、あった」

体温計を取り、カバーを外し汰絽に手渡した。
その間にチャイムが鳴り、風太は玄関へ向かう。
やってきた夏翔は風太に買ってきたものを渡し、むくを抱き上げた。


「ほれ、飲み物。これが一番体にいいから。あとこれヨーグルトとゼリー。多分食欲がなくなるだろうから、薬の為にもこれを食べさせろよ」

「ああ。むく、頼むな」

「おう。あとはわかんないことあったら電話しろよ」

「助かる」

夏翔とむくを見送ってから、風太は貰ったものを冷蔵庫に入れ、飲み物を片手に汰絽のもとに戻る。
ちょうど体温を測り終わったのか、汰絽はメモリを見ていた。
そばに寄って、体温計を受け取ると、8度0分の数字。


「ちょっと待っててな」

携帯でタクシーを呼び、それから身体を冷やさないようにブランケットと温かい上着を持ってくる。
汰絽をゆっくりとお越し、上着を着せた。
ソファーにかかっていたマフラーをぐるぐるにまいて、風が当たらないようにする。


「動きにくい…」

「寒くないだろ」

「まあ…」

汰絽にペットボトルを渡して、窓の外から道路を見る。
タクシーはまだかと眺めていると、遠くから走ってくるのを見つけ、風太は汰絽をブランケットで包み抱きあげた。


「歩けます…」

「駄目だ」

抱き上げられた汰絽は困ったように眉を下ろす。
しかし聞く耳を持たない風太は急いでエレベーターに乗り一階を押した。


「もう、心配しすぎです…」

「しすぎ?」

「慌ててるんだから…」

くすくすと笑う声も力がないから、風太は余計に心配する。
額をあわせて、おとなしくしてろよ、と呟いた。

タクシーに乗り込んでから病院に行き、診察を受けた。
結果はただの風邪で、風邪薬を処方してもらってからすぐにマンションに帰ってきた。
おかゆを作り、少し食べさせてから薬を飲ませて、ベッドに横になる。
汰絽はひとりで寝れないから、風太も隣で横になった。


「寝れそうか?」

「…風邪薬で、眠気が…」

「ああ、寝な。寝たらよくなる」

「はい…。ごめんなさい、心配かけて」

「大丈夫だよ。ほら、目瞑って」

汰絽を抱きしめて、ポンポンとお腹を叩くと、呼吸がゆっくりになってきた。
目を瞑った汰絽の寝息が聞こえてきてほっとする。
よかった…、と小さく呟いてから、汰絽の額に自分の額をくっつける。


「早く良くなれよ、風邪ひきさん」

風太は汰絽の真っ白な額に口付けてから、冷えピタを額に張った。

風邪ひきさん end
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