意地っ張りのかわい子ちゃん-2-
マンションで作楽の車から降りると壱琉が待っていた。
作楽は壱琉に頭を軽く下げるとすぐに車を走らせる。
むくは壱琉に駆け寄ってぎゅっと抱き付いた。
「ごめんなさい」
「ああ。俺も言い方が悪かったな」
「壱琉、ごめん」
「むく、中入ろうな」
そっと背中に腕を回されて、ポンポンと撫でられる。
手つきが優しくて、むくはごめん、ともう一度呟いた。
エレベーターに乗って、壱琉の手をぎゅっと握る。
握り返してくれる手が温かい。
「俺もな、昔はそんな風に怪我してた。春野もな」
「うん」
「仲間を守ることだって大切だ」
「ん…」
「でもな、もっとうまくやってほしい。俺はお前が傷を作ることが嫌だから」
繋いでいないほうの手で、ガーゼを張った頬を撫でられる。
こくりと頷いたら、いい子だな、と、額にキスをくれた。
「…いち、ちゅーは?」
「家帰ったらな」
「んー…」
握った手開いたり閉じたりして遊んでいると、壱琉が軽く笑う。
その声がもう怒っていないことを告げていて、むくはほっとした。
「むく、作楽ちゃんとドライブするのも好きだけど、やっぱ壱琉がいい。車の中でね、壱琉の車で聞く曲が流れたの。でも、やっぱ、壱琉の車で聞きたいから、切ってもらった」
「へえ? …可愛いことするじゃん」
「…ん」
エレベーターが壱琉の部屋の階につき、降りる。
部屋に入ると、さきにソファーに座った壱琉が両手を開いた。
その腕の中に入りむくも壱琉の背中に腕を回す。
小さくなって、膝の上に乗る。
「壱琉、キスしてい?」
「どうぞ」
身体を少し離してから、目を瞑った壱琉の唇にちゅっとキスをする。
背中に回った手が優しくぽんぽんと撫でてくるのが心地よい。
もう一度キスをすると、今度は壱琉がキスを返してくれた。
「むくのキスは可愛いな」
「んー…なんでぇ?」
「んー。可愛いからお前のキス、好きだよ」
もう一度、キスをしてから、壱琉の肩口にぐりぐりと頭を摺り寄せる。
優しいぬくもりにむくは甘えるように目を瞑った。
「意地張っても可愛いからなぁ、俺のむくさんは」
壱琉の笑い声が心地よくて、むくは、もう一度ごめんね、と謝った。
意地っ張りのかわい子ちゃん end
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