春野家の1日-5-
「杏の借りたから、ほら、しっかりつかまれ」
「免許は?」
「持って来た」
「…ほんと?」
「ほんとだって。ほら、早く帰って続き」
風太に急かされるように、足を撫でられて汰絽は風太の背中にしがみついた。
バイクが発進して、回した手に力を入れる。
いつもの道を、いつもの倍以上のスピードで進んだ。
すぐにマンションにつき、汰絽は少しだけよろけながらバイクから降りた。
風太もさっと降りて、汰絽を支える。
汰絽のななめがけも自分の鞄も持って反対側の手で汰絽の手を掴みながら、オートロックのマンションに入っていった。
それから、エレベーターに乗り込む。
「風太さん、歩くの、早かった」
「悪い。俺ももう結構限界なんだ」
「そんな、こと…」
「たろ」
丁度、風太が名前を呼んだとき、エレベーターが春野家の部屋がある階で止まった。
風太は今度は速度を落として、部屋まで歩く。
鍵をあけ中に入ったら、風太は汰絽を強く抱きしめた。
「…ん」
小さく洩らされた声に、風太はぎゅうぎゅうに抱きしめていた腕の力を抜いた。
それから靴脱げ、と頭をなでる。
靴を脱いだ汰絽の腕を引っ張りながら、風太は汰絽の鞄など、荷物をリビングに置き今は勉強部屋となっている風太の部屋へ向かう。
黒を基調とした部屋に入れば、汰絽は直ぐにベットへ押し倒された。
「悪い、ほんと、余裕ねえわ」
「いじわる、やですよ?」
「しねえよ…多分」
小さな声が震えて伝えてくるのを聞き、風太は少し息を吐いた。
それから、わかった。と吐息にもいた声で答える。
答えてから汰絽の細い脚をスラックス越しに触れて指先にまで到達した。
その手は汰絽の靴下を脱がし、素足を撫でる。
「あ、…や」
汰絽の甘い声を聞き、風太はそっとその足首に口付けた。
もう一方の足も同じようにし、唇を舐めてから今度は唇に口付けを施す。
「ん…」
バードキスから深いキスに変わっていき、次第に濡れた音が汰絽の耳を攻めていく。
それさえも気持ち良く感じるのか、汰絽は体を捩った。
汰絽の動きを感じて、風太は深い口付けを止める。
さらさらとした蜂蜜色の前髪を梳いて、額に口付ける。
額に触れた唇は、眉間へ、鼻筋へ、頬へ、と徐々に下に下がっていった。
汰絽は熱くなった吐息を吐きながら、風太のYシャツを掴む。
「は…ぁ、ん…」
「なんか、すごい敏感だな」
「そんな、ん…、ことない、です」
「キスだけでこんなになって」
「だって…」
「また、だってか?」
「いじわるっ…あッ」
急に、指先で触れられた首筋に喘ぎながら、汰絽はYシャツを掴んだ手に力を入れた。
風太はその手を緩めるように、汰絽の手の甲を撫でて促す。
それから、だんだん降りて行っていたキスを再開させて、首筋まで到達した。
赤い花びらを思い出して白い首筋に吸いつけば、いとも簡単に赤い痕がつく。
汰絽は体を震わせながら、風太にしがみついた。
「迎え…何時?」
「いつもは、4時過ぎ…」
「まだ1時ちょっとだ。まだ時間あるな」
「そんな、いっぱいできません」
「大丈夫、満足させてやる」
「ん、…」
再開された愛撫に、汰絽は首筋をあらわにした。
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