意地っ張りのかわい子ちゃん

春のリクエスト祭り
壱琉(31)×むく(17)
あおい様

「壱琉の馬鹿っ」

顔を真っ赤にしたむくが怒りながら、部屋を出ていった。
いつもなら追いかけるが、今回の場合、壱琉はその後ろ姿を追いかけない。
舌打ちをしながら、最近は控えていた煙草に火をつけた。


「もしもし! 作楽ちゃん!? 今から行っていいっ?」

「むく、どうしたのですか」

「今壱琉の部屋出てきたの!」

電話越しの優しい声が、今から迎えに行くと返事をしてくれたのを聞いて、電話を切る。
時刻はもう夜の九時になっていた。
大好きな家族は、今日は旅行に行っている。
風太と汰絽が恋人という関係であることに気付いているむくは、こうして時々ふたりに気をきかせていた。
ふたりがいない日は、壱琉のマンションに泊まりに来るのだが、今日に限って喧嘩をしてしまい行く場所がなくなった。

作楽の家は壱琉の家から車で10分の場所にある。
春だけれどまだ寒い空の下待っていると、作楽の乗る車がむくの前に停まった。


「作楽ちゃん、ごめんね」

「かまいませんよ。むく、どこか行きたいところはある?」

「ドライブ…」

「少し車走らせましょうね」

作楽の笑みにほっとするのと同時に、隣に座っているのがどうして壱琉じゃないんだろうと思うと切なくなった。
窓の外を眺めていると、壱琉の車でよく聞く音楽が流れる。


「ラジオ、消していい?」

「いいですよ。…どうしたんですか、今日は」

「…今日、抗争があって、ちょっと怪我した」

「怪我?」

「ほっぺ、ナイフ持った人が居てね、うちの幹部の子を切りつけようとしたから」

「ああ、」

ちらりとむくを見た作楽はなるほどね、と眉をひそめた。
それから、山の方へ向かう。
むくの好きな道だ。
壱琉と喧嘩した時、作楽がよく連れてくる。


「壱琉だって、総長だったんだから、そんなことよくあったでしょ?」

「ええ、ありましたねぇ」

「それと同じなのに、壱琉ね、むくに駄目だってゆうの」

「だめ?」

「怪我するくらいならやめろって」

むくが靴を脱いで膝を曲げる。
小さく座ったむくが寂しそうなことに気付き、作楽は微笑んだ。
自分の携帯がチカチカ光っていることに気付き、作楽は自販機のある休憩所に車を停める。
少し待っててください、と告げてから、携帯を開いた。


「もしもし」

「…俺だ」

「はい。大丈夫ですよ。いつも通り、むくの好きな道走って落ち着いた頃に送り届けますから」

「ああ。むくは?」

「三角座りして寂しそうにしてますよ」

「…はは」

壱琉が笑う声を聞き、作楽も小さく笑った。
何年もずっと一緒にいるのに、このふたりはよく喧嘩をする。
それは、お互いを思い合ってのことが多いけれど。
そんなふたりが可愛くて、作楽は微笑んだ。


「では、切りますよ」

壱琉にそう告げてから電話を切り、作楽は飲み物を買い車に戻った。
むくにココアを渡し、自分もコーヒーを煽る。

「むくはもう気付いてるかもしれませんが。東条さんはむくのことを大切に思っているから、きっとそんな風に言ったんでしょうね」

「うん…」

「あの人は曲がった伝え方をするから」

「うん。…作楽ちゃん、帰る。むく、意地張っちゃったの」

「むくはいい子ですね。とってもいい子で、優しい」

作楽ちゃんありがと、と伝えてから、むくは作楽がくれたココアを飲んだ。
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