不器用なヴァンパイア*-15-

日が昇る直前に、混血種は全員が地面に突っ伏していた。
風太はすぐに東屋に入り、ブランケットで汰絽の肌がさらされないように抱き上げる。
すぐに抱き上げ、日が当たらないように来ていた上着も脱ぎ汰絽を包んだ。
それから、急いで屋敷の中に入る。


「汰絽、大丈夫か」

こくりと頷いた汰絽はこてんと風太の肩に頭を置く。
後から入ってきた東雲が困ったように笑う。


「汰絽君は純血種の中でも変わり者だから、朝になると眠ってしまうんだ。ちなみに他の吸血鬼は眠らないよ」

「…そうだったのか。たしかに、俺も眠くはない」

「どうしようか。すぐにここを出なきゃいけない。また他の奴らがやってくるからね」

「でも、日に当たれない」

「大丈夫。さっきみたいにぐるぐるに包んで、それから表に車を用意するから」

東雲はそういうと、ちょっと待っててと再度外に出ていった。
すぐに戻ってきた東雲の手には林檎と薔薇が持たれている。


「これは汰絽君の象徴だから、ちゃんともっていかなければ。荷物は後々送るから、今度は別の国に行かなければいけないなぁ」

「別の国?」

「ああ。用意はできてるよ。ここに行ってくれる?」

「…わかった」

「迎えが来たよ。表の車に乗って、空港についたら私の名前を出して。そうしたらすぐに乗れるから」

見せられた紙を加え、汰絽のぐるぐるにまかれた汰絽の足あたりに薔薇とリンゴを置く。
それからすぐに屋敷を出て、車に乗り込んだ。

東雲に言われた通り、空港で東雲の名前を出すとすぐに飛行機に案内された。
怪しげな格好をしているのにすぐに、飛行機は飛び立ち、まったく知らない国に連れていかれる。
渡された紙の中にはこれからのことが書いてあった。


「用意周到だな」

ついた先で待っていた東雲家の車の中、風太は自分の腕の中で眠る汰絽の髪を梳いた。
車はしっかりと光を遮るようにカーテンが閉まっている。
汰絽の寝顔があまりにも呑気そうで、風太は笑わずにはいられなかった。

日本と同じような屋敷に車はついた。
汰絽をブランケットなどで包んでから屋敷の中に入る。
この屋敷も汰絽の意思を組むのか、勝手に扉が開き風太は中に入った。
東雲の使いの車はすぐにどこかに向かっていき、中に歩みを進めると黒電話が鳴る。


『ああ、ついたようだね。予定通りだ。そっちの家は日本のものと変わりがないから安心して』

「…助かります」

『それから、庭にリンゴと薔薇を埋めてごらん。すぐに日本と同じような庭が出来る』

「ファンタジー小説みたいだ」

『それも汰絽君の力のひとつ。あとそれから、必要なものは定期的に送るからね。例えばアップルパイの材料とか』

東雲の笑い声に風太も思わず笑う。
それから、ぐっすりと眠っている汰絽の顔を見た。
額に軽くキスをしてから、会話を続ける。


『汰絽君をよろしくね』

「…はい。大事に、します。幸せに」

『約束だよ』

そう言って笑った東雲はすぐに電話を切った。
夜までは暇になるだろうな、と思いながら、風太は受話器をおろし汰絽を抱えたまま大広間に向かう。
大広間のソファーに汰絽をおろし、ブランケットをかけなおした。
東雲に言われた通り、リンゴと薔薇を片手に庭に出る。
軽く穴を掘り、薔薇を埋めてから東屋の近くにリンゴを埋めた。
すぐに薔薇が生えてきて、リンゴも芽を出した。
リンゴは成長するのが遅いようでゆっくりと伸びていく。
日差しがまぶしい。


「…あー…、幸せだな」

思わずそう呟いてから、風太は足取り軽く屋敷に戻った。


「ん…」

汰絽の声が聞こえてきて、すぐに大広間に入る。
身体を起こした汰絽は風太を見るとふにゃりと笑った。


「…風太さん」

「ん? まだ寝てたらどうだ」

「んーん…、アップルパイ、食べたい」

「それは夕食でな」

汰絽の髪を撫でて、そっとキスをする。
そのキスに嬉しそうに笑みを浮かべた汰絽に風太はもう一度キスをした。


「汰絽、幸せにするから」

こくりと頷いた汰絽の顔が幸せそうで、風太は笑みを浮かべずにいられなかった。

end

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