不器用なヴァンパイア*-14-
「君、本当に呑み込みが早いね」
「…まあ、一応進学校卒業してますしね」
風太がそういうのを聞きながら、汰絽はローズヒップティーを飲んだ。
満月の下で、風太は東雲に戦い方を教わっていて、汰絽はそれを東屋の中の大理石の椅子に身体を預けながら眺めている。
そつのない動きをする風太と舞うように戦う東雲の姿はとてもきれいだった。
「君みたいな変わりたての奴らが一番力が強いから、もうこれで安心だね」
「ありがとうございます」
「汰絽君の血、美味しい?」
「は?」
「いやぁ、一応気になるからさ」
汰絽の元へ戻る途中東雲が笑いながら尋ねてきた。
この男は最初にあった時よりも警戒を解いていて、だいぶ親しみやすくなった。
風太は苦笑しながら、東雲のうしろを歩き答えた。
「…汰絽しか知らないから他と比べらんねぇけど、美味いと思います。香りもずっと甘いし、味も濃くて…アップルパイ見たいな」
「へえ。…はは、可愛いなぁ、汰絽君は」
風太がむっとするのに気付き、東雲はからかうように笑う。
汰絽の元に戻ったふたりは大理石の椅子に腰をおろし、同じようにローズヒップティーを飲んだ。
隣に座った風太を見上げた汰絽は笑みを浮かべながら、こてんと身体を預けてくる。
その仕草が愛おしくて、風太は汰絽の背中を撫でた。
「…風太さん、リンゴのアイス食べたい」
「ああ。東雲さんも食べますよね」
「いただこうかな」
甘えるような声でお願いしてくる汰絽に風太は笑いながら汰絽を抱き上げる。
相変わらず白いYシャツ一枚だが、最近は東雲が来るときはブランケットを羽織るようになった。
東雲に頭を撫でられた汰絽は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「仲良しだね」
「はい」
いい返事を返した汰絽はきゅっと風太にしがみ付いて額を首にすりすりと擦りつけた。
東屋からでようとしたとき、風太が足を止め東雲の方を向く。
遠くから何かが走ってくる足音が聞こえてきて、汰絽もぴくりと身体を震わせた。
「…東雲さん、」
「ああ、来たようだね」
「汰絽、東屋から絶対に出ないで」
こくりと頷いた汰絽は風太に下ろしてもらい、きゅっと風太の手を握る。
それからかがんで、とお願いして、風太にかがんでもらった。
「怪我しないように、おまじない」
チュッと軽く額に口づけてから、今度は唇にキスをする。
手をぎゅっと握ってから風太は汰絽の手に口付けた。
「守るよ。約束したから」
汰絽の耳元でささやいてから、風太は東屋を出た。
東雲も汰絽の頭を撫でて微笑む。
「東雲さんも、怪我しませんように」
そう囁いてぎゅっと手を握る。
東雲も同じように手を握り、すぐに離した。
東屋を出て、遠くの空を見つめると小さなきらめきが見えた。
薔薇が汰絽を守るようにざわざわと動き出し、東屋を囲む。
汰絽はぎゅっと祈るようにぎゅっと手を握った。
「…六十里の純血種のイヌか」
やってきた混血種は風太を見るとそう呟いた。
低く体勢を構え、相手を見る。
東雲も同じように体制を構え、低い呻き声を漏らした。
「甘い匂いが強いなァ、この屋敷はァ」
男がそういうのと同時に距離を詰めてきた。
後ろに下がり、体勢を整えてから鉄柵の端を掴みもぎ取る。
鉄棒を振り上げ、男に振りかざした。
身体が軽い。男の肩に手を置き、そのまま身体を浮かして男の背後に回り首を絞める。
くっと力を入れるとすぐにかくりと首が落ちた
「春野君、その程度じゃ甘い。もっと強く」
東雲に言われた通り力を入れて再生が追い付かないところまで首の骨を折る。
東雲は次々と混血種を倒して、汰絽のいる東屋を守る。
風太も同じようにコツを得た後は、あたりを一掃するように動いた。
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