不器用なヴァンパイア*-8-

風太から血を分けてもらった時から、風太を見ると牙がうずくようになった。
お礼のキスをするときも、ただ傍にいるときもどくりと身体がうずく。
時折、ローズヒップティーの中から風太の血の香りがするのも知っていた。
汰絽の口の中で広がる甘く優しい血の味が、身体を温かくさせる。


「…ん、また入れましたね」

「お前、俺のもう吸わないのか」

「いやですもん。もうあんな姿見せたくない」

そう言いながらもマグカップからローズヒップティーを飲む汰絽が、足をすりすりと擦り合わせているのを眺める。
ああ、可愛いな…と思わず舌なめずりした。
汰絽の体内に自分の血液が取り込まれ、吸収されるのを思い浮かべるとぞくりと背中が粟立つ。
マグカップを撫でる白い指に噛みつきたい衝動に駆られた。


「アップルパイ、食べたい」

「そういうと思って作っておいた。今持ってくる」

汰絽の頭をぽんぽんと撫でてから風太は厨房へ向かった。
冷蔵庫の中の輸血パックは少しだけしか使わないようにしている。
前回のように酷い渇きを感じさせることがないように、計画的に飲ませるようにした。
それから、自分の血をたまに混ぜてみたり。
また、あの時のようにじかに吸わせたい。
最近はずっとそんな思いが胸を占領していた。

アップルパイを切り分け小皿に乗せる。
それからすぐに大広間に向かい、テーブルの上に乗せた。


「ほら」

「わあ…、今日は、シナモンが強いですね」

「そうか?」

「なんか香りが強い気がして」

風太がカーペットの上に腰を下ろしたのを見て、汰絽はお礼のキスをする。
軽く触れさせて離そうとしたところで、風太の唇から血の味がした。
思わず舌を差し込み血の味を味わおうと必死に口内をかき回す。


「ん…、んぅ…、あっ」

身体を離すと、風太が苦笑していた。
口を押え、痛ぇ…と呟く。


「口内炎と、さっき口の中噛んじまったから。血が出てたんだな」

「ご、ごめんなさい…」

「お前結構飢えてるんだな。…ほら、かんじまえよ」

首筋を曝け出すと汰絽がうっと息を詰めるのがわかった。
ぴくぴくと震える手を伸ばしてくるが、我慢するようにきゅっと小さく丸まる。
体育座りをしたため、白いYシャツの中身が見えてしまいそうだ。


「もう、意地悪しないでください」

「意地悪じゃないっての…。好きな奴の役に立ちたいって思って悪い?」

「…っ、ほら、意地悪する」

「お前の方が意地悪だよ」

そう言って、汰絽の頬を両手で挟みキスをする。
このキスがお礼じゃないことくらい、汰絽だってわかった。


「あ、ぅ…、ん」

甘い風太の血の味と、気持ちの良いキスに思わずうっとりとする。
汰絽は風太の首に腕を回し、抱きしめてもらった。
お互いの身体を求めるように、腕を動かして唇を何度も重ねる。


「…んン、」

答えないまま、こうして唇を重ねるのは、ずるいんじゃないか。
汰絽は心地よさの中で膨らんでいく罪悪感に、胸を締め付けられるような気持ちになった。
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