春野家の1日-4-
目を覚ましたら、風太は隣で本を読んでいた。
何の本を読んでいるか見たら、英語で書かれたものだ。
「ふ、たさん」
「お、起きたか…、爆睡してたから、このまま寝続けるかと思ってた」
「…」
額に口づけられて、汰絽は目を見開いた。
風太は汰絽を笑いながら本を閉じる。
それから、小さな体を抱き上げて自分の膝の上に乗せた。
「たろ…」
甘く名前を呼ばれて、体が震える。
その震えが伝わったのか、風太が汰絽の背中を撫でた。
「っあ、ゃ…」
「何、感じた?」
「ちがっ…ちがいます」
「顔…すげえ赤いぞ」
「だ、って、ふうたさんが…」
「誰も来ないな」
「やだっ、昨日、したのに」
「何やらしーこと考えてるんだよ」
「意地悪」
「意地悪で結構。家帰るか? むくの迎えまで時間あるし」
風太がとびっきり甘い声で、囁いてきて汰絽は目を瞑った。
それから、小さく頷く。
汰絽の手を握り、鞄取ってくるから待ってろ、と告げて、風太は図書室を出た。
風太が出て行ってから、汰絽はそっと風太に握られた手に視線を馳せた。
触れられたところが熱く、きゅっと身を縮める。
ずるい…と声にならない声で呟いて、それから風太の温もりを思い出した。
風太は図書室から出て、1年の教室がある棟に向かった。
その間、先ほどの汰絽を思い出す。
いつもに増して、愛らしかった。
「あんな顔されちゃ我慢できねえだろ…」
とか、呟きながらスピードを速めた。
教室の中から授業を進める声が聞こえ、風太はそれに臆することもなく後ろから入った。
それから毎日見ている猫のキーホルダーが付いた鞄を見つけ、取りに行く。
がたがたと一気に道が開け、風太は吹き出しそうになった。
教師もいうことはないのか、黒板と見つめ合っている。
「春野汰絽、腹痛で早退」
それだけ呟けば、日直だったらしい生徒がひいっとも似た、悲鳴じみた声をあげた。
それにさえ笑いそうになりながら、風太は真っ青になってしまった教室から出ていく。
風太が出て行った途端、盛大に聞こえた息の音も、風太を笑わせる一因になった。
図書館へ向かう足を速めて、すぐに図書室につく。
自分の鞄は杏に持ってくるように言ったため、図書室に入ったら杏と汰絽が会話していた。
「あ、たろちゃん。旦那さん来たみたいだよ」
「風太さん」
汰絽に呼ばれて、風太は先ほどまでいたところまで進んだ。
杏はベランダに出て煙草を吹かしている。
「あれは?」
「ん? よしくん? よしくんなら、今保健室で寝てるよー」
「どうかしたんですか?」
「なんか、こころちんのキーホルダー貰って、興奮しすぎたみたい」
「そうですか」
「たろ、ほら鞄」
汰絽は自分の鞄を受け取って、風太の元へ進んだ。
杏が手を振るのを見て、2人は教室を出ていく。
廊下はしんとしていて、誰もいない。
2人はどちらともなく寄り添いながら、玄関へ向かった。
玄関に着けば風太が靴を取りにげた箱へ向かった。
汰絽も自分の靴をはき、風太の方へ向かう。
「たろ」
風太の声に駆け寄り、2人は授業真っ只中の学校を出た。
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