不器用なヴァンパイア*-7-
輸血パックがなくなって三日。
東雲は何か別のことで手が離せないのか、汰絽のために輸血パックを運ぶことが出来なかった。
汰絽は二日目から部屋にこもりきりで、顔を見せてくれない。
理由を尋ねると、我慢が出来ない、と一言だけ帰ってきて、それっきり物音がしなくなった。
この家は汰絽の言うことを聞く。
汰絽が開けないで、というと汰絽の部屋の扉はかたくなに開こうとしない。
「…この前東雲さんから連絡が来て、あと一週間近く届けられないって言ってたぞ」
『…死んじゃう…』
「だからほら、出ておいで。俺の血をやるから」
『…人からもらいたくない』
かたくなに頷かない汰絽にどうしたことかと風太は扉の前に腰を下ろした。
汰絽はベッドの上で丸くなっているのか知らないが、かれこれ三日も顔を合わせてないとしんどいものだ。
「なんで吸いたくないの? 俺じゃいや?」
『違う、違うんです。僕、吸血するのが下手で…、痛くするかも』
「大丈夫だよ」
『うう…』
汰絽が唸るのを聞いて、風太ははっと思いついた。
この家の特質を使えばきっと、汰絽は顔を見せずにはいられない。
身体を起こし、扉にむいた。
「…このドア開けないと、汰絽が死んじまうぞ。わかってんだろ」
そう低い声で囁くとドアがきいっと申し訳なさそうに開いた。
すぐに中に入り込み、ブランケットに包まってる汰絽の傍に行く。
ベッドに腰をおろし、ブランケットの上から汰絽を抱きしめた。
「…ほら、出ておいで。俺は大丈夫だから」
優しくそっと囁き、汰絽を抱き上げる。
ポンポンと背中を撫でると汰絽が顔を出した。
「…、どうなっても、嫌いにならないで」
ろうそく越しに見た汰絽の瞳は真っ赤に染まっていた。
ツナギの上をおろし、Tシャツ姿になる。
首筋を見せると、汰絽のの瞳がきゅうと細くなった。
そっと抱きしめて、汰絽の耳に口づけると、首筋に痛みが走った。
「ック…、」
じゅる、と音とともに血が吸い上げられるのを感じる。
汰絽の身体がびくびくと震えていて、風太は強く抱きしめた。
「んアっ、…っ、ん、んう…、あぁ…う、」
時折首筋から唇がはずれ、汰絽の艶やかな喘ぎ声が聞こえてくる。
その声を聞きながら、背中を撫でると、汰絽がしなやかに背をのけぞらした。
「ああっ」
ビクリと身体を震わせた汰絽は、風太の肩にしな垂れかかった。
首筋の痛みはすぐ治まり、首筋に触れると血は止まっている。
案外少量なんだな、と思いながら、汰絽の身体を抱きしめると、いつもより温かかった。
「汰絽?」
「ん…、ん…ぁ、…やだ、まだ、止まらないぃっ」
汰絽の身体はまだびくびくとしていて、風太はベッドに汰絽を下ろす。
涙を流しながら、身体を震わせている汰絽が、酷く扇情的で風太は唇を噛んだ。
「…お前」
「こんなの、初めて…っ、まだ、びくびくする…」
白いYシャツの裾から見える白い生足がもぞもぞと動き、その足が湿っているのが見えた。
そっとそこに手を這わせると、手のひらにドロリとしたものが触れる。
その触り心地と匂いから、汰絽が何度も白濁を零していることに気付いた。
Yシャツの下は何も身に着けていないことがわかり、それもそれでドキドキとさせられる。
「…あ…、そんなとこ、触んないで…」
息も絶え絶えに伝えてくる汰絽に悪いと謝ってから、白濁で汚れた手に舌を這わす。
目の前でそんなことをされた汰絽は、恥ずかしそうに顔を隠しやだあ、と泣き声を漏らした。
「悪い、つい」
「ついで、人の、舐めないで…」
「俺、お前のこと好きだって言っただろ」
「好きだからって舐めないです…っ」
汰絽は指の隙間からこちらを見て、足をきゅっと閉じた。
嗚咽を漏らしながら、顔を隠す姿は可愛くて仕方がない。
「風呂、入ろうな」
こくりと頷いた汰絽は風太に手を伸ばした。
それにこたえ、汰絽を抱きあげて、風呂場へむかう。
蛇口から猫足バスタブに湯を入れながら、風太は汰絽の身体を洗った。
初めてみる白い裸体は想像してたよりうんと細く、白く、それでいて艶めかしい。
変な気を起こさないように心の中で念仏を唱えながら汰絽の身体を洗い、抱き上げ猫足バスタブの中にいれる。
「こうなるから、やだったんです」
「こうなる?」
「僕、昔から吸血するのが下手で…、初めて人のを飲んだ時、ほんとなら相手を気持ちよくさせる物質が出るはずなのに、その物質が僕自身に効いて…」
「…ああ、よく聞くな、吸血鬼の話で。…つまりお前自身が気持ちよくなってしまうから、吸血せずに輸血パックからってことか」
こくりと頷いた汰絽は恥ずかしそうに顔をそむけた。
ああ、可愛いな、と思いながら汰絽の髪を洗う。
「…でも、風太さんの、今までで一番気持ちよかったしおいしかった」
ぼそりと呟いた汰絽の言葉に風太は心の中で舌打ちをした。
軽く立ち上がった自分のものが憎い。
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