不器用なヴァンパイア*-6-
「この前、純血種って言ってたけど、ほかに何かいるのか」
「混血種と準純血種がいます。準純血種は純血種から変えさせられた人間で、混血種は準純血種や他の混血種から変えられた人間です。…僕は、純血種です」
「へえ…。じゃあ、この前来た東雲って人も?」
「はい。…僕は日も浴びれないし、ニンニクも食べれないし、十字架も苦手ですが、東雲さんは強いからあまり関係ないので昼でも外に出れるみたいです」
「お前、ニンニク食べれないのか」
こくりと頷きながら、ローズヒップティーを飲む。
あまりおいしくない血の味が、ローズヒップティーと混ざることで飲みやすくなっていた。
風太はいつもソファーに座らないでカーペットに腰を下ろす。
どうしてだろう、と思いながら、風太をじっと見つめた。
風太に自分の正体がばれた日から彼は輸血パックから血を入れたローズヒップティーを淹れてくれるようになった。
それは、彼が研究とかしたのか、ちゃんと味が損なわれないように淹れられていて、汰絽は嬉しくなる。
「…風太さん、」
そっと呼ぶと優しく返事が返ってきて、いつも通りお礼のキスを頬に送る。
これは昔からの癖で今でもずっと続いていた。
最近は風太にお礼のキスをするとき、ぎゅっとなるときがある。
その感情はよくわからないけれど、とても温かいものだった。
「するならこっちがいいな」
風太はそういうと、汰絽の頬を押え、唇を重ねてきた。
その唇の温かさに思わずうっとりとしてしまい、風太の肩に手を置く。
もっと、とねだるように風太の髪を撫でると、風太は笑いながら答えてくれた。
「輸血パック、あとひとつだけどどうするんだ?」
「東雲さんが届けてくれるはず、です」
「そうか。…どれくらい?」
「…今忙しいから、少し遅くなるかもしれないって言ってました」
「…もし必要になったら、俺のやつやるから」
ふるふると首を振ってから風太に抱き付く。
それから、もう一度キスをねだった。
体温が混じっていくのがすごく好きだ。
風太の優しい体温がまるで自分のものになったような気がするから。
「ん…ん…」
「ん、ほら、俺仕事するから」
「はい。…お庭の方ですか?」
「ああ。林檎の木の剪定。こっち戻ったら、大広間の掃除する」
「ありがとうございます…」
物欲しげにしていたのがわかったのか、風太が笑いながらもう一度キスをくれた。
このまましてるとずっとねだってしまいそうで、汰絽はすぐに唇を離す。
唇は皮膚が薄くて、いつも風太の中を流れる血を感じた。
それが心地よくて、中毒になりそうだった。
「モンブランが食べたい…」
「大広間の掃除が終わったらな」
「作ってくれるんですか?」
「ああ、昨日栗貰ってきたから」
「わあ」
嬉しそうに笑った汰絽に風太も笑い返す。
ポンポンと頭を撫でてから、風太は庭へ向かった。
もうすっかり秋で、リンゴも実が大きくなってきた。
ここの林檎はいつでも実をつけている。
それはふたつみっつでしかないが、まるで汰絽のためのようにいつもなっていた。
林檎の木を丁寧に剪定してから、今日もなっている実をもぎ取る。
真っ赤な林檎は、汰絽の唇のように綺麗だった。
剪定を終えてから、大広間を掃除してモンブランを作る。
汰絽のもとに運んで、一緒にストレートティーを出した。
朝、血液パックを使ってしまったから今は何もいれずに出す。
汰絽は嬉しそうに紅茶を飲みながら、モンブランを頬張った。
自分の作ったものが汰絽の身体の中に取り込まれると思うと指先が震えた。
「うまいか?」
「はい。…お礼、」
そう呟くと風太がしゃがんでくれる。
肩に手を置いてそっと唇を重ねた。
いつものお礼は回数を重ねるごとに深さを増して、汰絽は自分を止めることが出来なくなっているのを感じる。
それは風太も同じで、ふたりは一日に何度もお礼と偽ったキスを交わしあった。
白い艶めかしい足の間に入り込み、汰絽の背中を強く抱く。
汰絽もそれに答えるように必死に風太にしがみ付いた。
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