春野家の1日-3-

先についた風太と汰絽は、フェンスに背を預け、ボーとしていた。
いつの間にか繋がれていた手を、汰絽は握ったり親指で風太の手の甲を撫でたりしている。


「今日は、たこさんウィンナーですよ」

「そうか、たこさんか」

「明日は何にしましょうか」

「かにさんで良くないか」

「そうですね、かにさんにしましょう」

ぱっと、風太のほうを振り返ったら、ちょん、と唇が触れた。
啄ばむ様な口付けが、汰絽を襲う。


「ん、ん…、ふ、ふうたさ…」

がちゃっとドアが開く音が聞こえ、汰絽は身を強張らせた。
風太が口付けを止める様子もない。
わお、と杏が声を上げたら、ようやく風太が体を離した。


「春野先輩!!」

「たろ、怒るなって。杏、たろのは?」

「あるよーん。はい。よしくん、なんだか今日は熱いねー」

「そうですね!!」

「ごはーん」

汰絽が杏から弁当を受け取ったのを見て、風太も自分の汰絽お手製弁当を開いた。
青色の弁当箱に、かわいらしいおかずが入っている。
汰絽の弁当箱は黄緑色。


「いーなー、風太は可愛いお嫁さんに毎日おいしいお弁当!! ああうらやましい!!」

「お前だって、好野の弁当摘まんでんだろ」

「よしくんのは、男らしいんだよ!!」

「そりゃ、俺男だし…」

好野がしょぼくれるのをみて、杏がキャラクターグッズをチラつかせた。
みらくる☆はあとまじっくの主人公のこころちゃんがゆれている。
好野は、そのゆらゆらと揺れているこころちゃんは、ぱしっと猫のようにキャッチした。


「ナイスキャッチ」

「ふふ、こころちゃんだ。うふふー」

「よしくん、きもい」

汰絽のきもい、の一言にさえ反応せずに、好野は自分の世界にひきこもった。
そんなやりとりをしているうちに、風太はたこさんウィンナーを食べ始めている。


「あー、はるのん、たこさんウィンナーが入ってる」

「うらやましいだろ。たこさん」

「うらやまー」

風太がたこさんウィンナーを一口で食べたのを見て、汰絽も自分の弁当に集中した。



チャイムが鳴るのを聞いて、杏と好野は屋上でさぼる、と告げてきた。
風太は汰絽の手を取り、図書館へ向かう。
授業でも滅多に使われないため、図書室は大体無人となっている。
戸を開けて入ってみれば、やはり今日も無人だった。
本棚の奥の方へ行くと、ベランダへ続く扉がある。
そこに背中を預けて座れば、汰絽も同じように腰かけてきた。


「弁当うまかった」

「そうですか。よかったです」

「ほんと、いい嫁だな」

「風太さんはいい旦那さんですね」

ふふ、と笑った汰絽に、風太も笑みを零した。
ちょうど太陽の位置で部屋は薄暗く、落ち着く雰囲気だ。
汰絽がこてん、と風太の方へ頭を寄せた。


「眠いのか」

「少し…」

「寝たら、暇になるんだけど」

「そうですか」

「ひでえ」

「じゃあ、しりとりでもしますか」

「色気ねえな」

「…僕に、色気を求めるなんてっ」

「悪かったよ。ほら…」

寝なと、ぽんぽんと頭を叩かれて、汰絽は目をつぶった。
遠くで、授業が始まるチャイムの音が聞こえる。
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