ハッピーバースディ、マイダーリン。当日
洗濯物も終えて、正午。
昨日の夜、帰りに借りてきたDVDを見ていた。
9年前に風太が買ったお揃いのマグカップで紅茶を飲みながら。
のんびりと過ぎていく時間が心地よい。
「僕、ファンタジー物好きです」
体育座りをしながら、ぽつりと呟いた汰絽の言葉に、知ってる、と返事をする。
このやり取りは、9年間のうちに何回もしてきた。
変わらない、ふたりのやりとりは、どこか慣れ親しんでいて心地よい。
隣から感じる汰絽の体温に落ち着く。
テレビの画面では、ライオンと少女が仲よさそうに頬を擦り合わせていた。
「風太さん」
小さな声で名前を呼ばれて、そちらを向く。
大きな目がゆらゆらと揺れて、きゅっと瞼で隠れた。
少しだけ尖った唇に、軽く笑いながら、口付ける。
求めていたものを貰えてうれしかったのか、頬を赤く染めながら、嬉しそうに足をパタパタさせた。
「かあいいな」
「どうも」
「キス好き?」
「キス好きです」
恥ずかしそうに答えた汰絽に、風太はもう一度笑いながら、柔らかな頬にキスをした。
DVDが終わって、エンドロールが流れる。
リモコンを手に取って、取り出しボタンを押した。
「次、続き見るか?」
「はい」
パッケージにDVDを戻す姿を眺める。
それからマグカップに視線を戻すと、空になっているのが見えた。
「風太さん、おかわり入れましょうか?」
「ああ、頼む」
風太の返事を聞いて、キッチンへ向かう。
お湯を沸かしながら、先ほど聞いていたエンドロールを口ずさんだ。
キッチンから聞こえてくる鼻歌。
綺麗な音に笑みがこぼれた。
いくつになっても変わらないな。
そう思うと、とても愛おしく思えてくる。
それから、なんともない日常のようなこの時間が愛おしい。
「どうぞ」
トン、とテーブルに置かれた紅茶。
湯気がたっていて、いい香りがしている。
隣にちょこんと座ってきた汰絽の腰を抱きながら、リモコンの再生ボタンを押した。
「これ見終わったら、夕飯作りますね」
「あぁ。…何作ってくれんの?」
「何が食べたいですか?」
「…あ、オムレツ食いたい」
「わかりました。じゃあ、あとはポトフとケーキ、作ります」
そう言って笑いかけると、風太に抱きあげられた。
足の間に挟まれて抱きしめられる。
少しきついくらいの抱擁に、汰絽も同じくらいの強さで抱きしめ返した。
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