ハッピーバースディ、マイダーリン。前夜-4-
「美味しかったですね」
「あぁ」
車に揺られながら、そう話す。
ラーメン店から少し走ったところは山で、トンネルをいくつか越えた。
案外遠いところまでドライブするんだな、と窓の外を眺める。
ぽつぽつと電灯の灯りが等間隔で並んでいた。
「どこに行くんですか?」
「んー? 適当に」
「てきとう」
風太の言葉をオウム返しして、窓の外から視線を移す。
暗くてよく見えないけれど、はっきりした顔立ちがうっすらと見えてほっとした。
「誕生日、すっかり忘れてた」
「最近、忙しいですから」
「まあな。たろ、ありがとう」
「いいえ」
優しい声が耳をくすぐって、汰絽は窓の外に視線を戻した。
自宅からはかけ離れた場所。
家も少なく、灯りも少ない。
どこか物寂しいような感じがして、開けた窓を閉めた。
「そろそろ海が見えるぞ」
「え?」
山の間を抜けていくと、きらきらと赤、白、青、黄色の光が見えてきた。
空に昇っていた月とは違って、人工的な光。
急に開けた視界に、汰絽は息を飲んだ。
「初めて?」
「…はい」
車は坂をどんどんと下っていく。
ぽつんと立っていた信号を右に曲がって、海と隣り合わせで走る。
窓の外をじっと眺めていると、風太が笑った。
「この辺だな」
広々とした駐車場に車は入っていき、一番海の近いところに止まる。
風太が車から下りたのと一緒に、汰絽も車から下りた。
「すごい…!」
「だろ。この前時雨さんから教えてもらった。お前、こういうの好きだろう」
「はいっ」
「星とか、自然とか」
「大好きですっ」
コンクリートで固められた場所に駆け寄った汰絽は、手をついて少し背伸びして海を眺める。
ゆっくりと近づいた風太は、そんな汰絽の腰に腕をまわし、引き寄せた。
海風にはちみつ色の髪が揺られて、頬を撫でる。
「デート久々だからな」
「…ふふ、デート、ですね」
きらきらと輝く海を眺めながら、そう答える。
風太の体温が、薄いシャツ越しに感じられて、頬が火照った。
「明日、いいのか。水族館とか」
「いいんです。ゆっくり、ふたりっきりもいいでしょう?」
「…ああ。いやらしいこと、やりたい放題だし?」
「破廉恥」
トン、と頭を風太の肩に預ける。
風太のぬくもりに包まれて、思わず笑みがこぼれてしまった。
「汰絽…」
普段とは違った、少しだけ熱をもった声に呼ばれる。
くい、と振り返ると、風太の唇が頬に触れた。
すぐに離れて、今度は唇に触れる。
ついばむように、ちゅっと吸われて、体の向きを変えた。
風太の肩に手をそっと添えて、唇を押し付ける。
「ん…、ふ…」
くん、と背伸びをして首に腕を回す。
入り込んできた舌先を軽く吸って、唇を開いた。
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