ハッピーバースディ、マイダーリン。前夜-2-
買い物を終えたふたりは、目に入ったコーヒーショップに入った。
車の中に購入したものを入れて、のんびりとメニューを眺める。
難しい、噛んでしまいそうな品名を店員に伝えて、ランプの下で待つ。
品物はすぐに用意され、ふたりは空いている席に腰を下ろした。
「風太先輩、忙しそうだな」
「うん。最近なんてほとんど家に帰ってこないよ」
「珍しいな」
「…その代り、僕が呼び出されてるから」
ため息をつきながらそういうと、好野はだろうな、と呆れたように笑う。
クリームを混ぜながらそんな好野の顔を見る。
お互い、少し大人びたかな、そう思いながらストローを咥えた。
「お前が呼び出されてる時、むくちゃんどうしてるの」
「壱琉さんのとこ」
「え? 壱琉さんも会社のことで忙しいだろ」
「五十嵐さんの恋人が見ててくれてるの」
「へえ…。なんか複雑だな」
ず、と吸い込む好野は、携帯を開いて時計を見た。
そんな様子を眺めながら、汰絽もクリームで甘くなった液体を飲みあげる。
「今日、杏先輩帰ってくるんだった」
「うん、ありがとう、よし君」
「マンション、ついてから言えよ」
「ふふ」
カップをゴミ箱に捨てて、店を後にする。
立体駐車場に止めた車に乗り込み、汰絽のマンションへ向かった。
好野と別れ、家に帰った。
冷蔵庫に食材を入れてから、自室へ風太へのプレゼントを隠す。
今日は帰ってこれる。
そう言っていたのを思い出して、汰絽はキッチンへ向かった。
「あれ?」
突然綺麗なピアノの音を奏でた携帯。
すぐに電話の通話ボタンを押して耳に押し当てる。
低い声が少しだけ忙しそうに名前を呼んだ。
『たろ、明日休みになった。どこか行きたいところ、あるか』
「明日、ですか?」
『この前、新しくできた水族館に行きたいって言ってたよな』
「あ、」
『…どうした?』
忙しそうに、けれども優しい声で問いかけてきた風太。
きっと、明日が自分の誕生日だということを忘れているのだろう。
そんな様子が伝わってきて、汰絽は思わず苦笑した。
「明日は、お家でゆっくりしましょう?」
『いいのかよ』
「それが、一番です。ね? いいでしょう?」
『お前がそれでいいなら。…あと、今日は早く帰れる』
「はい。…待ってますよ」
そういうと、風太が優しい声でああ、と返事をして電話を切った。
高校生の時からどこか大人びていた風太は、今でも汰絽がかなわない、と言ってしまうぐらいに大人だ。
電話を切った彼は、きっと忙しなく書類を見て、部下達と一緒にあくせくしているのだろう。
そう思えると、ぎゅっと胸が締め付けられて、甘酸っぱい気持ちになる。
「好き、」
そう小さく呟くと、すっと胸が軽くなった。
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