ハッピーバースディ、マイダーリン。前夜

春野風太 誕生日(5/5)
諸事情により、年齢操作
むく→12歳、汰絽→24、風太→27


テレビから聞こえてくる、子どもの楽しそうな歌声に汰絽は顔をあげた。
むくは中学校の合同研修で旅行に出かけていて、風太は会社に朝から呼ばれている。
部屋の中でテレビを見ながら洗濯物を畳んでいた汰絽は、聞こえてきた歌声に大切なことを思い出した。


「明日、風太さんの誕生日だ…!」

誕生日。
一年に一度の大切な、大切な行事だ。
春野家に籍を入れてからもう九年になるが、今まで一度も忘れたことがない。
明日の風太の誕生日、むくはいないけれど盛大に行いたい。
洗濯物も区切りがつく。
汰絽はテレビを消して、机に置いておいた財布を手に取った。


「…誕生日プレゼントとケーキの材料。後は明日の夕飯の買い物」

確認するようにそう呟いた汰絽は、早足で玄関へ向かった。


近所のスーパーでは買えない買い物がある。
そう好野に電話して、足として使うために呼び出した。
少しむすりとした好野に軽く謝る。
シートベルトを締めると、好野は仕方ないな、と笑いながら車を出してくれた。


「毎年毎年大変だな」

「そうかな。…誕生日、大切だから」

「まあな。でももう、四捨五入すると30だろ?」

「僕たちももうすぐだけどね」

「俺なんてお前と違ってもうだよ」

好野がため息をつくのを聞いて、汰絽は小さく笑った。
窓の外を眺めていると、むくが通っていた幼稚園を通り過ぎて、もうこんなに時が経っていたのかとしみじみ思う。
ラジオから聞こえてくる音楽を口ずさむ好野の声に、目をそっと閉じた。


「杏先輩。最近遊びに来ないけど、元気?」

「まあ元気だよ」

「良かった。今度連れてきてね。むくが会いたがってる」

「むくちゃんあの人のこと大好きだからなー」

少しだけ嫌そうな顔をした好野にくすりと笑う。
駅前の専門店街が見えてきて、ふたりは自然と口をつぐんだ。


「よし君はいつも杏先輩の誕生日何あげるの」

「んー。一緒に服買いに行くよ」

「服かー…」

「お前んとこ、サプライズだからなぁー」

「そうなの」

うーん、と唸った好野とふたり、適当に店を見渡す。
途中見えたブランド店の小物に目が止まった。


「タイピン…」

「ん?」

「そういえば、あの人タイピンなくして困ってたんだった」

数週間前にタイピンを探しながら唸っていた風太の姿を思い出す。
忙しさにかまけて新しいのを買いに行くのを渋っていた。
目に入ったのはシンプルなデザインの物。


「これ、似合いそう」

飾りすぎず、それでいて見劣りしない。
値段も、少し高めだが買えないこともない。
嬉しそうな顔をした汰絽に、好野が苦笑した。
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