上目づかい論議

「あ、汰絽」

風太に呼ばれて汰絽は顔を上げた。
丁度ソファーに横になっていたため、自然と見上げる形になる。
すると、風太が急に鼻に手を当てて、顔を背けた。


「風太さん? なんですか?」

「…あ、アイス。買ってきたから食えよ」

「わーい。アイス。ありがとうございますッ」

「おう…」

風太を見上げたまま礼を言うと、風太はとうとうソファーに背を向けた。
何事かと起き上がって風太の前に回る。
風太はあーやら、うーやら呻いて、汰絽の目を大きな手のひらで目隠しした。
その目隠しにはてなマークを浮かべつつ、こてん、と首を傾げる。


「ふーたさん?」

「…お前、可愛すぎ」

「ふあ? …ふーたさん、真っ暗です」

「ずっとこうしてやりたい」

「変態さん。むく、帰ってきちゃいますよ?」

汰絽がクス、と笑ったのが聞こえ、なおさらあーと風太が呻く。
それからそっと目隠ししていた大きな手を外し、きゅっと汰絽を抱きしめる。
あまり伸びなかった背にふわふわの蜂蜜色の髪。
白い肌に、少しだけ上気した頬の色がとても魅力的で、風太は時々発狂してしまいそうになる。


「お前、他の男に上目づかいすんなよ」

「わわ、旦那様なふーたさん、素敵です」

「あー、俺の話聞けって」

「きいてますよ。…上目づかいなんてした覚えがありませんよ?」

汰絽の小悪魔な一面に、風太はデレデレしながらも、汰絽を腕の中から外に出してやる。
それから子供がするようなキスを頬に落とし、汰絽を抱き上げてソファーに下ろした。


「とにかく、上目づかいはダメ」

「はい。ふーたさぁん、アイスたべたーい」

「…あー、またそんなカワイイ顔して」

「、そんな、可愛い可愛い言ったって何もでませーん」

「はいはい。嬉しいくせに素直じゃない子ですねー」

「…意地悪ー」

「たこさんになってるぞー」

むくが拗ねたときにやる、たこのような口。
汰絽も拗ねたときにやるようで、唇が面白い形になっている。
頬を両手で押さえ、唇をかぶせれば汰絽から、甘い声が漏れた。


「ふふー。たこさんは終わりにして、アイス食べたいです」

「取って来いってか」

「おねがいします」

「はいはい。珍しくわがままだな」

「甘えてるんですー」

汰絽が嬉しそうに笑うため、風太も笑って冷蔵庫に向かった。
上目づかい論議はもう幕を閉じたようで、汰絽から聞こえる鼻歌に思わず笑いながらアイスを汰絽に手渡した。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

「わ、また上目づかいしてー」

「風太さんが背が高いのがいけないとおもいます」

「…汰絽が小さい、とは言わないでやるよ」

「わー、もう言ってますー」

汰絽がうーと唸ったのを最後に、もう一度だけ可愛らしい瞼に口づけを落として、風太も同じようにソファーに座った。


end
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