春野家の1日-7-
家について手を洗ってから3人はリビングに来た。
テレビをつけながら、ごろん、と寝転がる。
汰絽と風太の間にむくが寝転がり、ころころと転がった。
「むく、お昼寝ちゃんとした?」
「うん、今日はゆうちゃんとおとなりさんだったよ。だから、おててつないでねんねしたの」
「よかったね」
「うん。でも、こんどの土曜日は、たぁちゃんとふうたといっしょがいいな」
「じゃあ、そうするか。みんなで手つないで、昼寝な」
「わーいっ」
風太の提案に、むくが大喜びする。
それに汰絽もうれしそうにはにかんだ。
「…土曜日は、一緒にいれるんですね」
「おう。先週はちょっとあったからな…」
「あんまり無理しないでほしいです」
「…悪いな」
風太が汰絽の頭をなでるのを見て、むくが自分も撫でて、と体を摺り寄せてきた。
それに応えながらむくの目を覆って、そっと汰絽の目がしらに口づける。
汰絽はそれから立ち上がり、夕飯の支度してくる、とキッチンへ向かった。
風太はむくをそっと抱き上げて、自分の腹の上に乗せる。
きゃっきゃと喜ぶむくに、風太は笑いかけた。
「ふうた、あのね」
突然、静かになって真剣な顔をしたむくに、風太はどうした?と問いかけた。
「たぁちゃん、土曜日になると、元気なくなるの」
「…そうなのか?」
「うん。ふうた、どっかいっちゃうでしょ? そうすると、まゆげがね、きゅうってしちゃう」
「そうか」
「だから、たぁちゃんのそばにいてあげてね」
「おう。…むくも寂しいか?」
「うん」
しゅん、とした様子に、風太は苦笑してむくの頭を撫でた。
それから体を起こし、手伝いに行こう、とむくを抱っこしてキッチンへ向かった。
「たろ、手伝う」
「は、はい」
後ろからそっと覗きこめば、汰絽はむくの言ったとおり、眉間をきゅうとした表情でねぎを刻んでいた。
むくも汰絽の顔を覗き込んで、同じようにきゅうと眉間を寄せる。
それは、泣く一歩手前のような、表情だ。
「汰絽」
思わず、むくを支えてる方と逆の手で、汰絽を軽く抱きしめた。
びくっと体が少し震えて、それから包丁がまな板の上に転がる。
もう一度名前を呼べば、汰絽は振り返って風太の胸に顔を押し付けた。
「さみしかった?」
こくん、
「俺がいないと寂しい?」
こくん、と、風太の質問に、汰絽の頭がこくこくと揺れる。
むくも風太の腕の上で体をよじって汰絽に抱きついた。
「むく、わるい。ちょっと降りてくれ」
そう伝えて、むくをおろす。
すると、むくは汰絽の足にしがみついた。
汰絽は風太に抱きついて、ぎゅうぎゅうと力を入れてくる。
「傍にいるから、安心しな」
こくん、と頷いた汰絽は、ぐりぐりと頭を押し付けてきた。
そっとその蜂蜜色の頭に口付ければ、風を感じたのか汰絽が耳を赤くしている。
「真っ赤になってる」
「たぁちゃん、泣かないで」
風太とむくの言葉に、汰絽はおずおずと顔を上げた。
むくは泣いていなかった汰絽に、笑顔を見せお手伝いするっと、引き出しの中から箸を取り出して、運んで並べにいく。
その隙に風太は汰絽の頬を、手のひらで挟んでキスを与えた。
「ん…」
子供のするようなキスで、汰絽は思わず笑みをこぼした。
それから風太は手伝うともう一度告げて、包丁を取る。
心地よいリズムを刻みながら、ねぎや、材料が刻まれていった。
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