ふわふわ
突然のリクエスト祭り(5月)
有岬、汰絽、椿、むく
「おじゃましまーす」
道幸と有岬の家に可愛らしいお客さんがやってきた。
高い可愛らしい声と、大人びた優しい声がふたつ。
リビングのテーブルの上には買ってきたお菓子と道幸が好きだといっていた紅茶を用意してある。
久しぶりの集まりに有岬はうきうきとしていて、笑顔を見せた。
「うーさちゃん!!」
有岬に抱き付いてきたのは、汰絽の甥っ子のむく。
今は小学1年生で、黒色のランドセルを背負って近所の小学校に通っていた。
その小学校は、道幸が働いている学校でむくは時々有岬とあっている。
しかし、汰絽や椿は少し忙しくて会えていなかったため、久しぶりの再会、になったのだ。
抱き付いてきたむくの頭を撫でて、有岬はふたりに座るように促した。
「うさちゃん、相変わらず可愛いなー」
有岬を見て、嬉しさのあまり汰絽はニコニコしながらそう言う。
どちらかといったら乙女思考の有岬は笑みをこぼした。
そんな有岬に、汰絽と椿も微笑む。
「うさちゃんの作ったぬいぐるみが売ってる雑貨屋さん行ってきたよ」
「え、いいな、つー君」
椿が携帯を開いて写真を見せてくれる。
その写真には椿と時雨の間にぬいぐるみがいて、かわいらしいそれに汰絽がうらやましそうに椿を見た。
むくもいいなーと、覗き込んでいる。
“ありがと、嬉しいな”
「うさちゃんのファンだもん。ね、たぁ君、むっ君」
「ねー」
「ねー。むくね、幼稚園の時にね、うさちゃんに作ってもらったのランドセルにつけてるんだよ」
“そうなの? むくちゃんありがとう。また今度作るね”
「ほんと? うれしい!」
むくが喜ぶのを見て、椿と汰絽は声をあげて笑った。
有岬も嬉しそうに微笑み、むくの頭を撫でる。
お菓子食べてね、とむくにすすめた。
「いいね、こうやってゆっくりできるの」
「そうだね。今度は僕のうち、来ない?」
“あっ、行きたいな”
「じゃあ、次はつー君のお家だね」
次の約束をしてから、汰絽が思い出したかのように手を打った。
それから、鞄の中から何かを取り出す。
出てきたのは有岬がずっと欲しかったものだった。
「これ、風太さんがうさちゃんにって」
“ありがとう…! 初版!!”
汰絽から受け取ったのは、有岬が高校に通っていた時に愛読していた本の初版本だ。
春文社という風太の祖父の会社でアルバイトをしている風太が、特別にもらってきてくれた。
椿とむくは興味深そうにその本を見る。
“これね、高校通ってた時に読んでいたの。今も続いているんだけどね。先生も読んでるんだよ”
「えっ、井上さんも?」
「これ、面白そうだねぇ」
「なあに?」
様々な反応をする3人に、有岬は思わず笑った。
休日は有岬と道幸はリビングのソファーに腰をおろして、いつも読書をしている。
その時に読んでいるのは、大体この恋愛小説だった。
「そういえば、風太さんもこの本読んでいたなぁ。帯作るのかな」
“風太さんが? すごいねえ”
そう言いながら、笑っているふたりに椿とむくもつられて笑う。
ふわふわとした空気が流れ始めたところで、チャイムの音が鳴った。
見てくるね、と言った有岬の後から、見慣れた姿が見える。
「あれっ、今日は3人でお出かけするって…、なんで風太さん」
「いや、出かけたんだが、雨が降ってきてさ」
「だから、うちに行こうかってなったんだよ」
“今、お茶入れるね、先生”
「ああ、お願い、うさ」
お茶を入れにいった有岬の後ろを汰絽がついていく。
椿はむくの頬についたお菓子を取って、むくと笑い合う。
「まさか、みんな揃っちゃうとはね」
椿がこっそりむくと笑いあうのを見て、有岬は小さく笑った。
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