有岬と夜月

旧拍手から(〜10/01)

有岬と夜月

「そう言えば、うさと夜月さんの名前の由来ってなんなの?」

読書をしていた周が急に顔を上げ、有岬は目を丸くした。
名前の由来。
過去に兄に聞いたことのあるそれを思い出す。
絵の上手い夜月が、イラスト付きをしていた。


“お兄ちゃんは、夜の月。
 夜の道を歩くとき、月が頼りになるでしょ。
 誰かをそっと支えられますようにっていう意味なんだって”

「へえ。いい由来だな。…夜月さんらしい」

“でしょ。お兄ちゃん、お月さまみたいに綺麗だもん”

「あぁ」

次、有岬は、と問いかけなくても、答えると思い、周は静かに聞く。
が、有岬はいっこうに話そうとしない。


「うさ?」

“聞かなくてもいいでしょ”

「聞きたい」

じとっと恨めしそうな顔で見られ、周は苦笑する。
数分その状態をキープしていたら、あきらめたのか、有岬が指を動かし始めた。


“生まれた日がちょうど十五夜で…、お月さまでおもちをつくうさぎさんから”

「…うさぎ、うさきということか。漢字は?」

“岬という字のさきは、先って言う意味があって、先が有るって意味。
 僕、生まれた時未熟児で、2歳まで持たないかもって言われてたの。
 そこで、先がありますよに。長く生きれますように、って漢字は当てはめたんだって”

「へえ…、すごいな。なんか意味が深い」

“そうかな。兎さんは好きだけど、みんなうさぎって聞き間違えるから、ちょっと嫌だった”

「名前、夜月さんが考えたんだろ? うさの名前は」

“うん。お兄ちゃんが10歳の時に”

「小さい時から頭良かったんだな」

“自慢のお兄ちゃんだよ”

照れたように笑う有岬に、周も同じように笑った。
外を見ると、満月が輝いている。


兎と月。
有岬と夜月。

綺麗なもう1人の幼馴染を思い出した。


end
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