夢の行き先-3-

ようやく実現したマイホーム。
家具も入れ終え、引っ越し作業も終わり、各々の暮らしが始まった。
家で1人でいるのはまだ慣れないのか、有岬は周のそばによくいる。
井上と夜月、2人の仕事が終わるまでどちらかの家にいるのが当たり前になっていた。


「ただいま」

「おじゃまします。有岬ー、迎えに来たよ」

夜月の帰宅とともにやってきた井上は微笑ましい光景に出会った。
クーラーの効いた部屋でカーペットの上で横になる2人はぐっすりと眠っている。
本を読んでいる途中で眠ってしまったのか、カーペットの上は本だらけになっていた。


「…毎日のんびりと過ごして、幸せそうですね」

「この子達に必要な時間でしょう」

「このまま抱えて帰ります」

「では」

「また、明日」

有岬を抱えた井上は、隣の我が家へ帰っていく。
夜月も周を寝室へ連れて行ってるだろう、と考えながら、井上は有岬を寝室へ連れて行った。
ぐっすりと眠る様子にほっと息をつく。


「…よく寝ているね」

思わず呟きながら、井上はシャワーを浴びにシャワールームへ向かった。



“先生、お帰りなさい”

シャワーから戻ると、有岬が少しもじもじとしながら、井上に告げた。
ただいま、と返しながら、隣へ腰を下ろすと、有岬は井上を覗き込む。


「ん? どうかした?」

“抱えてもらっちゃったって。すぐ隣なのに”

「構わないよ。起こすのがもったいなくなるくらい可愛い寝顔だった」

“重かったですか?”

「重くなかったよ。夜月さんとこでシャワー浴びてきたんだよな?」

こくりと頷いた有岬に微笑む。
今日はもう寝ようか、と横になると、まだ眼が冴えてると、有岬は唇を動かした。


「今日はどんなことして過ごした?」

“周と一緒にお昼ご飯を作って…、本を読んだりしてました”

「本か。どんな本を読んだ?」

“絵本です。今度、図書館で読み聞かせをするみたい。それの練習をしてました”

「読み聞かせ、そっか」

こてんと自分の腕に頭をのせた有岬の頬をなでる。
柔らかな頬はとても気持ちがいい。


「何を読み聞かせてもらったんだ?」

“えっと、白雪姫とか、シンデレラとか。女の子が多いんだそうです”

「へえ。沖田は読み聞かせ上手そうだな」

“はい。上手でしたっ”

そう言って笑う有岬に、井上は安心する。
時々、有岬が寂しい思いをしているんじゃないか、とか、考え込んでしまうときがある。
その時は、有岬の微笑む顔を見て、安心することができた。
自分はこの小さな存在に、こんなにも助けられてる。
そんな考えがよぎって、思わず小さく笑った。


“先生?”

「ん? …なんでもないよ。ただ、有岬が笑ってると幸せだなって」

“僕も…、先生が笑ってると、とても幸せです”

ずっと、夢のようだった。
ふわふわとした生きているのか、死んでいるのかもわからないくらい。
今は違う。
有岬を腕の中に感じることができるようになって、自分は変わった。

夢の行き先は、この小さな我が家に。


「今度、俺も聞きに行こうかな」

“その時は、僕も一緒に”

温かな場所で2人、暮らしていく。


end

後書
リクエスト内容
 井上と有岬のその後
 周とか夜月も混ざった話

その後のお話。
2人は幸せにのんびりと過ごしています。
井上は夜月と仲良くなり、周からはからかわれつつ楽しく過ごしています。
有岬の体調のほうはすこぶる良くなっているようです。
その後のお話はまだまだ沢山出てきそうですが、
マイホームを手に入れた2人と、夜月と周のお話にさせていただきました。
書いていて、とても幸せそうで、にやにやしました。
匿名様、リクエストありがとうございました。
先生と僕を最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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