夢の行き先-2-

夜月さんもケーキ好きなんですね。
井上がそう尋ねると、夜月は驚いたような顔をした。


「そんなに好きではないよ。ケーキが好きなのは君たちだろう?」

そう言って周と有岬に話を振る。
2人はこくりと頷くと、ケーキをフォークで掬った。
イチゴの乗ったショートケーキを食べながら、周は夜月に尋ねる。


「ここの別宅はどうするんですか? 俺たちも新築に引っ越すんですよね?」

「ええ、そのつもりだ。別宅は必要な人間に貸す。私の後輩がこちらに引っ越すというから」

「そうなんですか。じゃあ、とりあえずは家を建ててからですね」

2人が話すのをぼんやりと聞く有岬は、口元にケーキを付けている。
それを取りながら、井上はどうしたことか、と有岬に思いをはせた。


「家の間取りは私が考えるが構わないか?」

「構いませんよ。あ、でも、キッチンは良いのにしてくださいね」

「わかっている」

隣で楽しそうな会話を聞いていると、井上も有岬の意見が聞きたいと思いはじめる。
嫌だと言われたら、取り合えず家を建てて、慣れるまで夜月宅に…と考えた。


「有岬はなにかある?」

“あの、あの…”

「うさ? どうした? 言いたいことがあるなら、はっきりと…」

“ぼ、僕、”

有岬が言い出せずにいると、夜月が思いついたようにああ、と呟く。
それからおかしそうに笑いながら、そういうこと、と1人納得した。
夜月の納得した表情に周もわかったのか、ああ、と同じようなリアクションをする。
井上だけがわからずに、うんうんと唸っていると、有岬は恥ずかしそうに俯いた。


「井上さん、有岬は料理ができない。そのことを案じているようですよ」

夜月の言葉に、かあっと耳まで赤く染めた有岬は、周の腕をとり、顔を隠す。
そんな様子に井上まで頬が温かくなるのを感じる。
心配していたのはそんなことか、と思わず苦笑してしまった。


「大丈夫。俺が料理できるから」

“でも、先生忙しいです”

「忙しくても大丈夫だよ。それに、料理は教えてあげるから」

井上の言葉に、曇らせた顔を瞬く間に晴れ模様にした有岬。
そんな有岬を、3人は微笑ましく眺めた。
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