Remember-4-
「結構怖かったな。有岬、大丈夫か?」
と、有岬を振り返ると、有岬はぐったりしていた。
洞窟の中は骸骨や大きな蛇など、実にリアルな造形をしていた。
しかもその怖いものがわっと船に襲いかかってくる。
怖いものなどが苦手な有岬が、ぎゅうっと井上の腕を抱いたのを井上は思い出した。
「少し休もうか。あそこのカフェに入ろう」
園内にあるカフェへ向かう。
有岬はまだ怖いのか、井上の腕をぎゅっと握ったままだった。
「待ってて。飲み物買ってくる。甘いものはいる?」
“道幸さんに任せます”
「わかったよ。荷物見てて」
こくりと頷いた有岬に井上はカフェのカウンターへ向かった。
パラソルの日陰のテーブルの腰をかけ、有岬は井上の背中を向ける。
すらっとした長身の井上は後ろ姿も格好いい。
眺めていると、2、3人の女性が井上に声をかけていた。
女性達はみんな綺麗で、有岬は不意に自分が情けなく感じる。
こんなにちんちくりんな自分が、傍にいてもいいのか。
そんな風に思えてきて、有岬はテーブルに腕をのせ頭を預けた。
「お嬢さん、1人?」
不意に誰かに声をかけられる。
そちらに顔を向ける前に、その人物は有岬の隣と前に腰を下ろした。
にやにやと笑っているその人たちに、有岬は身震いする。
「可愛いね。この後は何に乗る? 俺達ここのホテル取ってんだよねー。一緒に泊まらない?」
「お前露骨すぎるだろー」
「うるさいなー」
「ほら、行こうよ」
ふるふると首を振っている有岬の手を、その男は取った。
ごつごつとした指輪がついた手に握られて、手首が痛む。
声を出すことができない有岬は、必死に手を払おうと手を振った。
「何してんだ」
不意に低い声が聞こえてきて、有岬は安心する。
ほっと息をつくと同時に、有岬の手を握っていた手が払われた。
それから井上の腕の中に抱きこまれて、有岬は井上の香りを大きく吸い込んだ。
「俺の連れに何してんだって言ってんだよ。聞こえないのか?」
「…んだよ、彼氏持ちかよ」
「わかっただろ、さっさと去れ」
「ッチ」
去って行った男性達を睨み、井上は腕に抱きこんだ有岬を解放した。
少し頬を染めた有岬は、井上の胸に手を当てて一瞬そっとそこへ口付ける。
井上はその行為ののち、有岬の頭を撫で、腰を下ろした。
「大丈夫だったか? …迂闊だった。有岬を1人にするなんて」
ごめん、と井上に謝られ、有岬はぶんぶんと首を振った。
そんなことない、僕こそ不用心でごめんなさい、そう告げる。
再度有岬の頭を撫で、買ってきたの食べようか、と2人は笑い会う。
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