Remember-2-
「明け方には着く予定」
“うん。楽しみ”
「俺もだよ。有岬、乗って」
“はい”
嬉しそうに車に乗り込んでいく有岬に、井上も運転席に乗り込む。
いつも幸せそうな有岬は、今日はいつもより数倍幸せそうだ。
普段遠出なんてめったにしないから、今後は休みが取れ次第、どこかに連れて行こう、なんて考える。
ちらっと隣を見れば、うきうきとした有岬が目に入った。
途中、パーキングエリアにより、着いた遊園地。
あの時と変わっていないそこに、井上はほっと息をついた。
有岬との関係、他にも色々。
なにもかもが変わった。
唯一変わらないのは、思い出だけだ。
助手席で眠る有岬は、あの時よりも大人になった。
開園するにはまだ時間がかかる。
ぐっすりと眠る有岬の頬を撫で、井上はアラームをセットし眠りについた。
開園時間、目を覚ました2人は、車から降りた。
日差しが強いね、と、目を細める。
ゲートをくぐると、夏の日差しにアトラクションが輝いていた。
“きらきらしてる”
「そうだな。冬場に来た時も綺麗だったけど、夏もいいね」
“うん。ありがと、連れてきてくれて”
「あぁ。有岬の喜んだ顔が見れて良かったよ」
ゆっくりと歩きながら話していると、大きな池から噴水が上がった。
水辺のアトラクションで、船に乗って探検ができる、というものだ。
夏にしか乗れないため、人気がある。
噴水の水が、周りにかかり、あちこちから楽しそうな声が上がった。
「何から乗る?」
“ブランシュのおうちから行きたいな”
「わかった。ここから近いな。行こう」
並んで歩いていると、噴水の時よりも色めきたった声が耳に入った。
その声は有岬を見ての声だ、と、井上は気付いている。
大人になってから可愛らしかった有岬は綺麗になった。
下手な女よりもとても綺麗で、どこに行っても注目される。
そんな有岬に苦笑しつつも、井上は有岬の隣を歩いた。
「有岬、はぐれないように手を繋ごうか」
“うん、ちょっと汗かいてる。待ってください”
「構わないのに」
“僕が構うの”
手をハンカチで拭いている有岬に笑うと、有岬は照れたように笑い返してくれた。
柔らかな笑みに隣を歩いていた男連れの3人が声を上げる。
中性的な服装を好む有岬が女性に見えたのだろう。
当の本人はまったく気付かずに嬉しそうな表情でハンカチを片付けていた。
彼氏持ちか、と言う声が聞こえて、井上は残念だったな、と内心ほくそ笑んだ。
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