焼くほど美味しくなりますよ
完結記念リクエスト
まり様より
図書館の一角。
木々を縫って入ってくる、やんわりとした日差しの中、有岬はうとうととしていた。
周が仕事を終えるのを待っている途中のこと。
この一角は有岬の特等席となっていた。
あまり利用する人のいないこの図書館は、有岬の落ち着ける場所の1つ。
「うさ、待った? ごめんな」
机に腕を組んで頭を預けていたところ、ぽんぽんと優しい感触。
そっと顔を上げると、優しい表情をした周がいた。
きゅっと周の腰元に抱きつく。
本の香りがして、有岬は目を瞑った。
「眠たいんだな。庭の日陰にでも行こう。そこならここより涼しいし」
周に促され、有岬は心地よい場所を立ち上がった。
井上が迎えに来るまでの間、周といつも一緒にいる。
仕事中は読書に浸り、仕事が終われば庭に出たり、公園で本を読んだり。
そんな毎日が、とても穏やかで心地よい。
高校時代の、張りつめた緊張もしなくてよい。
有岬はそんなことを考えながら、周に手を引かれ歩いた。
「日陰涼しいだろ?」
こくりと頷きながら、ベンチに腰をかけた有岬が笑う。
それから、持ってきた鞄を開き、中から弁当箱を取り出した。
“お弁当。先生、今日お昼あがりだから、先生の分と、僕の分と、周の分”
有岬の手の動きを見ながら、周は弁当箱を手に取った。
中を開くと、綺麗に入れられたおかずが目についた。
「有岬、進歩したな…」
“…誉められてるとして受け取っておくね”
「いや、ほんとに。高校の時の卵焼きなんて、目も当てられないくらいだったからな」
“そ、それは、フライパンが悪かったの!!”
むすっとした顔になった有岬に、周は笑いながら、有岬の手作り弁当に箸を伸ばす。
指先は器用な癖に料理はからっきしな有岬にしては、卵焼きがちゃんとした形になっているのは周にとっては衝撃的だった。
恐る恐る口に含んでみると、味も文句なしの出来具合。
「ほんとに進歩したな」
“先生に、見せられないほどの卵焼き食べさせるわけにいかないから”
少し恥ずかしそうに笑う有岬に、周も小さく笑った。
幸せになった親友の様子がとてもうれしい。
「まぁ、良かった」
そう呟きながら、有岬の頭を撫でていたところ、木の陰が人の形に濃くなった。
周が顔を上げると、少し不機嫌そうな顔をした井上が立ってる。
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