有岬と周

迎えに来た親友であり、ルームメイトである沖田周と寮に帰った。
温かいシャワーを浴びた有岬は、周の部屋に入る。
本を読んでいた周は、本から視線を上げて有岬を見つめた。
ドライヤーで乾かした髪がふわふわと揺れる。

有岬は、ベッドにすわりゆったりと壁に体を預けている周の腹の上に乗った。
ぱたん、と周の上に寝転がった有岬は甘えるように、周の胸にすり寄る。
まるで子犬のような有岬に、周は仕方ないな、と呟きながら、体を起こした。
起き上がった周と一緒に、体が起き上がる。
周の膝の上に座り、有岬はふんわりと笑った。


「今日はどうだった」

“体調はいつもより良かったよ”

「そう、よかった。ずっと医務室にいたの」

周の問いかけに有岬はふるふると首を振る。
いつもと違う笑みを浮かべている有岬はとてもうれしそうだ。
るんるんとしている有岬の頭を優しい手つきで撫でる。


“図書室に行ったよ”

「いい本見つけたの」

“うん。君恋の新刊借りてきたの”

「うさの好きのやつか」

“うん”

よいしょと周の上から降りた有岬は壁に体を預けた。
まだ話足りないのか、有岬は一生懸命に手話を続ける。
その手の動きに、周は小さく笑った。


「井上が?」

“あのね、先生、本探しにきたの”

「本?」

“うん。化学の本。僕が見つけたら、すごいって褒めてくれた”

「よかったな。うさは井上のこと大好きだからな」

“うん、格好よかったよ”

嬉しそうに手を動かす有岬が、小さく体育座りになった。
そわそわと足を動かしたりしている様子が、どこか小動物のようで、思わず笑ってしまう。


“今度から先生、図書室来てくれるって”

そう伝えてから、膝に顔を隠した有岬はちらりと周を見た。
周は優しい顔で微笑んでる。
そっと目を瞑って、図書室での井上を思い出した。
ひらひらと舞う白衣が真っ白で、ドキリと胸が鳴る。


“周とお兄ちゃん以外に緊張しなかったの、初めてだった”

「本当か」

“うん。だからね、すごく、嬉しかった”

「うさも成長したんだな」

“偉い?”

「偉いよ。今まで頑張ってきたんだから。俺もうれしい」

ぐりぐりと撫でられる頭にぽつりと涙がこぼれた。
嬉しいような、それでいて、きゅうと胸を締め付けられるような切なさ。
有岬の周りには限られた人しかいない。
そんな中、突然飛び込んできた井上の存在がとても大きくなったような気がする。


“先生といっぱい一緒にいたいな”

「放課後が楽しみになるな」

“うん”

嬉しそうに体を伸ばす。
小さな手足がうんっと伸びて、元の位置に戻った。
眠たくなってきたのかころん、と周のベッドに横になる。
周も隣に横になり、布団をかけた。


“一緒に寝ていいの?”

「いいよ。まだ話したいことがあるんだろ」

“うん。今日の体育は何をしたの…?”

カチ、と電気をひとつ消して、有岬と周は静かに会話を続けた。
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