寄り添いあう
ふわふわと頭をなでられる感触に、有岬は目を覚ました。
心地よい感触は、記憶の中で覚えている。
ゆっくりと体を起こして、その感覚のほうへ視線を向けると、ずっと恋焦がれていた人の姿が目に入った。
“…先生?”
唇が震えた。
何度も夢の中で呼んだ、存在が目の前にいる。
そうだよ、と、囁く声が聞こえて、有岬の頬が撫でられた。
ずっと恋しくて、恋しくて仕方がなかった存在。
有岬は頬を伝う冷たい感覚に、瞬きした。
「あぁ、泣くなよ」
井上が笑いながら有岬を抱きしめる。
初めて抱きしめた時より、少しだけ成長した有岬を感じる。
まだまだ小さい有岬に、井上は笑い声が零れた。
「有岬、会いに来るのが遅くなってごめんな」
ふるふると首を振る有岬に、井上はもう一度謝った。
それから、漆黒の髪を撫で、そっと口付ける。
柔らかな髪が心地よかった。
「会えなくなってから、ずっと考えてた。有岬のこと」
体を離し、井上は有岬の頬から涙を掬う。
ぽんぽん、と頭をなでながら、隣に腰をかけた。
「有岬は、俺のこと少しでも考えてくれた?」
こくこくと、何度も頷く有岬に、思わず笑う。
有岬の小さな手を握った。
小さな手は少し震えている。
そんな小さな手に、井上は一度咳払いした。
「…有岬、俺は、有岬のことが好きだ」
真剣な井上の顔に、有岬は涙を滲ませた。
空いているほうの手で、その涙をふき、柔らかく笑う。
“好き”
唇を動かす有岬に、井上は微笑んだ。
良かった。
そう呟いて、有岬をもう一度抱きしめる。
「ずっと、傍にいるからな」
井上の囁きを聞いて、有岬は僕も、と、答えるように井上の頬に口付けた。
木に寄りかかるようにしながら、有岬を抱きしめる。
ジーンズのポケットから携帯が落ち、有岬の携帯の隣に落ちた。
ブランシュのぬいぐるみが寄り添いあうようになって、ふたりは微笑んだ。
俺と僕 end
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