望み

『井上さん、お久しぶりです』

連絡がとることができなくなった夜月から、2年前、連絡をもらった。
2年前よりも、低くなった夜月の声に少し驚いたことを覚えている。


『会いに来てくれませんか』

夜月の言葉に、舞い上がったのを思い出す。
ようやく灯った希望に、目を瞑ることしかできなかった。

有岬に…、愛しい子に、会うことができる。
体に熱が走るような気がして、井上は行きます、と答えた。


「…あと、2年待っていただけますか」

『2年、ですか?』

明るい声で答えた井上の待っていただけますか、の言葉に、夜月は不可解そうな声を出した。
その声に思わず苦笑しながら、井上は訳を説明した。
2年後に担任を受け持った生徒が卒業するんです、と。


『そうですか。わかりました。後日、場所を連絡します』

電話を切ったとき、夜月が変わったな、と呟くのが聞こえた。
2年の月日がたった今でも、細部までそのことを覚えている。



暦上ではもう春になった。
まだ雪が降っている中、卒業式を行った。
井上はその卒業式と同時に、小学校を辞職して、マンションも引き払った。
幸い、荷物は少ない。
可愛い教え子たちとの別れは少し胸に来たが、心がとても弾んだ。


「夜月さん、これから行きます」

『ええ、お待ちしておりますよ』

「…夜月さん、有岬の体調は…」

『最近はだいぶ安定してます』

「良かった。…今は?」

『今は、有岬のお気に入りの場所にいますよ』

夜月が笑うのが聞こえた。
この人も笑うんだな、そう思うと少し笑えた。
待ってますよ。
再度夜月がそういうのを聞いて、井上は返事をした。

少しずつ雪が降るのを見ながら、井上は車を走らせた。
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