決意

「なぜ…」

電話のことがあって以来、有岬の体調がまた崩れだした。
壁に寄りかかりながら、有岬の部屋の扉を見る。
眠っているだろう有岬を思い浮かべ、目を瞑った。


「夜月さん?」

不意に周に声をかけられて、夜月はそちらへ視線を向けた。
お盆の上に小さな鍋を持った周に、夜月はあぁ、と声を出す。
ちょっと待っててください、と周はすぐに有岬の部屋に入った。
鍋を置いてきた周は夜月のもとへ戻ると夜月の頬に手を当てる。


「冷えてる。夜月さん、夏場でもここは冷えるんですから…」

「…いや」

「いやじゃなくて…」

「周、」

急に夜月の腕が背中に回ってきて、周は息を飲んだ。
夜月の腕が前より細くなった気がして、不安になる。
小さく名前を呼べば、夜月は周を抱きしめる腕に力を入れた。
周もすぐに夜月の背中へ腕を回す。
大丈夫です、そう囁いて、周は夜月の首筋に顔を寄せた。


「…夜月さん、部屋で休んでください」

「あぁ…」

そっと体を離し、夜月が部屋に戻るのを見送る。
周は夜月が部屋に戻ったことを確認して、有岬の部屋に入った。


井上との連絡を断って、だいぶ時間が経った。
未だに有岬の体調は安定せずに、夜月は神経をすり減らしている。


「周」

「なんですか?」

「…井上さんと会わせようと思う」

「…急に、どうして」

「私は、もうわからなくなってしまったんだ。何があの子のためになるのかが…」

「…」

「それでも、彼なら…何とかしてくれるのではないかと、思えてきた…」

周が苦笑するのを見て、夜月は視線を有岬の部屋に移した。
そんな夜月の様子に、周もそうですね、と呟く。
有岬とこの別荘に引っ越してきてから、夜月はだいぶ変わった。
その変化が良いことなのかわからないけれど、周は微笑まずにはいられなかった。


「…夜月さん、変わりましたね」

「そう?」

「ええ、変わりました」

にこにこと笑みを浮かべる周に、夜月は照れたように周から視線を外した。



窓から入る月明かりを眺めながら、夜月は有岬の部屋にいた。
ぼんやりとした月の明かりに、目を凝らす。
不意に、有岬の寝息が止まり、そちらへ視線を移した。


“せんせい”

唇がそう動くのを見て、夜月は目を瞑った。


僕 end
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