微熱

「夜月さん、うさは…」

別荘のリビング。
何も入っていない暖炉の前でたたずむ夜月が目に入った。
周はそんな夜月に後ろから声をかけた。
返事はない。
どうしたことかと近寄れば、夜月の肩が震えているのが見えた。


「…夜月さん」

そっと、夜月の背中に額を寄せる。
夜月の背中は冷たい。


「大丈夫です、俺がついてます」

「…周」

夜月が振り返る。
細いけど、力強い腕に抱きしめられる。
抱きしめられるというより、まるで子供が泣きじゃくって求めるような抱擁。
震えている体に、周は目を瞑り腕を回す。


「すぐに良くなりますよ」

そっと囁けば、夜月があぁ、と呟くのが聞こえた。




「有岬…」

夜月とふたり、有岬の部屋に入る。
赤く染まった頬に手を当てると、ほのかに熱があった。
その熱に、周は思わず、小さく有岬の名前を呼ぶ。
隣の夜月は、タオルを絞って、有岬の額に乗せた。


「どうしてなんだ…」

小さな囁きが耳に入る。
有岬の額に乗せたタオルに目をやっていると、夜月が頭を抱え込んだ。
弱い人。心の中で呟く。
本当は、誰よりも弱くて、誰よりも寂しがり屋。
周はきゅっと唇をかみしめた。
夜月の隣に腰をかける。


「がんばれ、うさ…」

思わずもれた声に、周はため息をついた。
もう頑張る必要はないのか、と思いかえし、ゆっくり休もうな、と声をかけなおす。

布団をかけなおそうといっかい捲くった。
有岬のその手には携帯が握られている。
携帯についたぬいぐるみが目に入った。


「…そんなに、好きなのか」

夜月の声に、周は目を瞑った。


先生と僕とふたりの距離 end
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