わかってる

『…有岬、体調がすぐれないようだな』

開口一番それか、と周は苦笑した。
電話先で机を叩いているだろう指先を思い浮かべる。
とうとうばれてしまった。
周はごめん、有岬と心の中で呟き、夜月に答えた。
自室に入り、ベッドに腰を下ろす。


『どうしてもっと早く連絡をしなかった』

「…有岬の意思を尊重させていただきました」

夜月が黙る。
嫌な予感がした。
周は夜月さん、と小さく声をかける。
沈黙が続き、急にそれは破れた。


『周、そこの学園に心残りはあるか』

「俺…ですか…?」

急な問いかけに、周は押し黙る。
心残りなどない。
そう告げれば、その先がわかってしまっていて、周は答えることができない。


「…」

『周』

「…俺は…、特に…」

夜月の声に、周は目を閉じた。
ごめん、有岬。
もう一度心の中で謝る。
幸せそうに眠る親友を思い出して、周はぽつりと涙を流した。


『じゃあ、明日には退学手続きをしておくれ』

周は黙りこむ。
そんな周の気持ちを察したのか、夜月がため息をついた。


『…有岬は私が引き取る。私の別宅で療養させる』

夜月の言葉に、周ははっとした。
それから目を瞑って、小さく返事をした。


「…わかりました」

『あぁ。いい子だ。…君の両親には私が話をつけておく』

壁に背を預け、周は夜月の鋭い視線を思い出した。


「…夜月さん」

小さく名前を呼ぶ。
返事はない。


「…俺が、必要ですか…?」

周はらしくない自分に苦笑した。
それから、小さな声で、すみません、と謝る。


『私には、君しかいない』

自棄にやさしい声が耳を擽った。
切ない気持ちでいっぱいになり、夜月に電話を切る、と告げた。
わかってます。
切れる直前に、小さく呟く。
わかってます。わかってるんです。
何度も告げた、強がりが、口からぽろぽろと零れだしてしまった。
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